無症状のIgA腎症や膀胱がん、顕微鏡的血尿で偶然発見されることも
筑波大学は2月4日、経済モデルを構築し、特定健診において尿潜血検査を必須化した場合の、IgA腎症と膀胱がんの早期発見・早期治療に関する費用対効果を分析した結果、将来の医療費削減につながる可能性が示されたことを発表した。この研究は、同大医学医療系保健医療政策学・医療経済学の近藤正英教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical and Experimental Nephrology」に掲載されている。
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血尿とは尿に赤血球が混じった状態であり、尿の色調変化で気付かれる肉眼的血尿と、尿試験紙法による尿潜血反応で発見される顕微鏡的血尿がある。血尿の頻度は、対象集団の年齢、性別、国などによって異なるが、例えば、沖縄の住民健診受診者を対象とした場合、男性で3.5%、女性で12.3%であり、加齢とともに増加する。肉眼的血尿は自主的な病院受診につながりやすいが、顕微鏡的血尿は自覚症状に乏しく、通常は、健診や外来・入院の検査で偶然発見される。その多くは特別な治療を必要としない無症候性血尿であるが、中には、IgA腎症や膀胱がんなどの重篤な疾患も含まれる。
尿検査の項目には、尿蛋白、尿糖、尿潜血などがある。尿試験紙法による尿検査は簡便かつ安価であり、無症状の患者を早期発見し、適切な治療につなげる可能性がある。しかし、日本における40~74歳を対象とした特定健診では、必須化されている検査は尿蛋白と尿糖だけで、尿潜血は一部の自治体や職場でしか検査されていない。つまり、無症状のIgA腎症や膀胱がんの患者が発見されないまま、病気が進行してしまっている可能性がある。最近は、健診受診者のうち男性の尿潜血陽性者は心血管病による死亡率が高いという報告もある。以上から、特定健診において尿潜血検査の必須化を検討する余地があると考えられた。
尿潜血検査を必須化した場合の費用対効果を分析
研究グループは、特定健診において尿潜血検査を必須化した場合のIgA腎症と膀胱がんの早期発見・早期治療に関する費用対効果を分析した。分析は、経済モデルを構築して行った。具体的には、まず、特定健診において、尿潜血検査を必須化しない場合(現状維持)と、尿潜血検査を必須化する場合(100%尿潜血を実施する)についての判断樹を作成した。尿潜血陽性者は、二次精査後に、IgA腎症、膀胱がん、その他の腎・泌尿器疾患に分類される。
次に、IgA腎症と膀胱がんの長期的な予後を推計するために、マルコフモデルを作成した。特定健診への尿潜血検査追加のメリットとして、診断時期が早まること(尿潜血検査を実施しない場合と比較してIgA腎症は3年、膀胱がんは2年早く発見される)、早期のステージで診断されること(尿潜血検査をしない場合と比較してIgA腎症は末期腎不全のリスクの低いグループの割合が多く、膀胱がんは早期のステージの割合が多くなる)、という2つの仮定を経済モデルに組み込んだ。また、特定健診に尿潜血検査を追加する費用は、腎専門医へのアンケート調査の結果から、一人当たり100円とした。
質調整生存年の増分効果は0.000098QALY、「費用減効果増」
その結果、特定健診における尿潜血検査の必須化は、健診受診者一人当たり年間97円の費用削減をもたらすとともに、質調整生存年(QALY)の増分効果(健康寿命の延伸)は0.000098QALYとなり、費用減効果増という極めて費用対効果に優れた結果になった。
今回の研究により、特定健診において尿潜血検査を必須化すると、自覚症状のないIgA腎症と膀胱がんの患者を早期発見・早期治療することが可能となり、将来的に医療費削減につながる可能性が示された。「この方策の実現のためには、今後、血尿診断ガイドライン等の診断ガイドラインにおいて、医療経済評価を加味したエビデンスの追加が重要と考えられる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL