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脳梗塞発症後早期のDOAC開始日として新たに「1-2-3-4日ルール」を提唱-国循

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2022年02月04日 AM11:45

抗凝固療法の至適開始時期は?

国立循環器病研究センターは2月3日、「RELAXED研究」と「」の統合解析結果に基づき、脳梗塞発症後早期の直接作用型経口抗凝固薬()の適切な服用開始日として「1-2-3-4日ルール」を提唱したことを発表した。この研究は、同センター脳血管内科の木村俊介医師、古賀政利部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

非弁膜症性心房細動(NVAF)は脳梗塞(心原性脳塞栓症)の原因疾患として有名で、脳梗塞発症予防のためにDOACなどの抗凝固薬の服用が推奨されている。特に脳梗塞発症直後は脳梗塞再発リスクが高く、その点では発症後早期の抗凝固療法開始が望ましい。その半面、発症直後の脳梗塞は二次的な出血性梗塞を起こし易く、抗凝固療法は出血を助長しやすい欠点を有する。このため、脳梗塞発症後の抗凝固療法の至適開始時期には、いまだ一定の見解が得られていない。脳梗塞は、重症で梗塞巣が大きいほど、出血性梗塞を起こし易いことが知られている。

欧州のガイドラインでは専門家の意見に基づいて、一過性脳虚血発作は発症1日後、軽症脳梗塞は3日後、中等症では6日後、重症では12日後を目安に抗凝固薬服用を始める、いわゆる「1-3-6-12-day rule」が推奨されている。しかしこの推奨は、より早く抗凝固療法を始めて脳梗塞急性期再発を防ぎたい現場の考えと、やや乖離している。

国内のDOAC投与症例1,797例の追跡調査を解析

DOACは頭蓋内出血を比較的起こし難い薬として開発され、早期に服用を開始しても安全であろうという考えに基づいて、国内外でいくつかの研究が行われてきた。

SAMURAI-NVAF研究は、日本でDOACが初めて発売された2011年から2014年にかけて、国内18施設に急性脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)で緊急入院し、NVAFを有していた1,192例を登録、その後の2年間追跡調査を行った、前向き観察研究である。このうち499例に対して、発症後にDOACが処方されていた。

RELAXED研究は2014年から2016年にかけて、国内157施設からSAMURAI-NVAFとほぼ同じ基準で1,309例の患者を登録した研究。全例にDOACであるリバーロキサバンが投与されて、90日間にわたって追跡調査を行った。

今回の研究では、両研究の登録でDOACを処方しながら追跡を行った合計1,797例(基本情報の欠如した11例を除く)を対象とした。またSAMURAI-NVAFは、近年欧州の3つの多施設共同研究(RAF、RAF-NOAC、CROMIS-2)、3つの単施設研究(NOACISP LONGTERM、Erlangen registry、Verona registry)と患者情報を統合して、多くの解析研究成果を発表してきた。今回のSAMURAI-NVAFとRELAXEDとの統合解析結果を、この欧州の6研究の統合データベースを用いて外部検証した。

「1,2,3,4日後」のDOAC開始で90日以内の脳卒中、脳梗塞発症率は有意に低い

「1-3-6-12-day rule」において、脳卒中患者の神経学的重症度の尺度であるNIH Stroke Scaleを用いて、脳梗塞を3つの重症度に分けた。研究でも同じ基準を用いて、患者をTIA67例、軽症脳梗塞(NIH Stroke Scale7以下)899例、中等症脳梗塞(同8~15)370例、重症脳梗塞(同 16以上)461例に分けた。この4群におけるDOAC開始日の中央値は、それぞれ発症後2,3,4,5日後だった。

中央値以降にDOACを始めた1,012例を後期開始患者、中央値の前日(すなわち1,2,3,4日後)以前にDOACを始めた785例を早期開始患者と分類。早期開始患者は後期開始患者に比べて90日以内の脳卒中ないし全身塞栓症や(1.9%対3.9%、調整ハザード比0.50、95%信頼区間0.27–0.89)や脳梗塞(1.7%対3.2%、調整ハザード比0.54、95%信頼区間0.27–0.999)の発症率が有意に低く、安全性の指標である大出血発症率は同程度であることが判明した(0.8%対1.0%)。

外部検証において、2,036例のDOAC服用者を、前述の1,2,3,4日の基準を用いて、早期開始患者547例と後期開始患者1,489例に分けて解析。有効性、安全性の指標ともに、両患者群間で有意差を認めなかった。

1-2-3-4日ルールの妥当性、臨床試験で証明されることに期待

今回の解析結果から、日本人のNVAF関連脳梗塞患者において、抗凝固療法を控える条件(治療開始時点での頭蓋内出血の顕在など)を有さない場合、TIA、脳梗塞の重症度に応じてそれぞれ発症後1,2,3,4日以内にDOACを始めることの、有効性と安全性が示された。また、欧州患者による外部検証でも、この治療法の安全性が示された。欧州の1,3,6,12日後の開始基準に比べて、より臨床医の経験に基づく判断に近い基準であろうと考えられるという。

「現在世界中で、適切なDOAC開始日を探求するいくつかの臨床試験が行われ、そのうちの一つELAN試験には、国内の複数施設も参加している(国内研究代表者、古賀政利部長)。今回提唱した1-2-3-4日ルールの妥当性が、臨床試験でも証明されることを願っている」と、研究グループは述べている。

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