AKIが悪化する前の早期診断と治療・予防法の確立は急務
自治医科大学は2月2日、マイクロRNA(以下、miR)を用いた急性腎障害(AKI)の新規検査方法と治療・予防方法を発見したと発表した。この研究は、同大総合医学第1講座(自治医科大学附属さいたま医療センター腎臓内科)の森下義幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Translational Research」に掲載されている。
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急性腎障害(AKI)とは、感染症、薬剤、外科手術後などに生じる、急激に腎機能が低下する疾患。世界中で毎年1300万人がAKIを発症し、そのうち170万人が死亡している。また成人入院患者の5人に1人がAKIを合併するとも報告されており、さまざまな病気の合併症としても発症率の高い疾患の1つだ。AKIでは数時間から数日という短い期間で腎不全が進行し、老廃物を尿から排泄できなくなり、むくみ、吐き気などの症状が現れる。身体に老廃物や毒素が溜まってしまうため、最悪の場合は命に関わる。そのため、AKIが悪化する前の早期診断と治療・予防が必要とされている。
現在、AKIの早期診断法と特異的治療法・予防法は確立されておらず、その開発は喫緊の課題とされている。こういった課題をクリアするため、森下教授らは、miRによるAKIの診断および治療・予防法を研究、開発した。
血中miR-5100測定でAKIを早期診断できる可能性
miRとは、タンパク質に翻訳されない短いRNAのことで、その情報は遺伝子(DNA)の中にコードされている。現在、miRは2,000種類以上同定されており、血中にも存在している。miRは、採血による検査が可能なため、尿量の減ってしまった腎障害患者にも効果的な検査方法と言える。森下教授らは、2,000種類以上あるmiRの中から、AKI患者の血液中で特異的に発現が低下するmiR(miR-5100)の発見に成功した。これにより、患者の血液でmiR-5100の発現量を検査することでAKIの早期診断が可能になると考えられるという。
miR-5100、AKIの治療・予防につながる複数のアポトーシス経路を腎臓で抑制
1つのmiRNAには、多くのメッセンジャーRNA(平均200種類)に結合し、標的とするメッセンジャーRNAのタンパク質への翻訳を抑制する作用がある。つまり、miRが結合して発現を調節しているメッセンジャーRNAを解析し、疾患への関与を研究、コントロールすることができれば、多様な疾患の治療につながることが期待される。森下教授らは、人工合成したmiR-5100と非ウイルスベクターの複合体を、AKIモデルマウスに投与し、miR-5100が腎臓で複数のアポトーシス経路を抑制することで、AKIの治療・予防効果があることを明らかにした。
国際特許出願済、実用化に向け開発進行中
miR-5100の有用性は、AKIの検査や治療・予防薬としての活用が見込まれる世界初の報告となる。miRは、人工合成可能で、工場での量産が見込まれている。すでに、国内、国外ともに特許出願済みで、森下教授らは、ベンチャー企業と提携し、実用化に向けて研究開発を進めている。また、今後の展開として、検査薬や治療・予防薬としての実用化、量産化に向けて開発を進めていくとしている。
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