拡張型心筋症の発症原因としての遺伝素因は?
大阪大学は1月21日、完全浸透で心臓移植を要する拡張型心筋症の新規原因遺伝子として「BAG5」を複数家系において同定し、その遺伝子変異による心不全発症の病態メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の伯井秀行大学院生、坂田泰史教授、朝野仁裕特任准教授(常勤)、木岡秀隆助教(循環器内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Translational Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
拡張型心筋症は、左心室の拡張と収縮能の低下を特徴とする心筋疾患。一部の症例では重症心不全を発症し、薬物治療などで症状が改善しない場合は心臓移植が行われることもある。発症原因として遺伝素因が関わることが知られていたが、その多くは充分に明らかになっていない。また、現代の医療において根治的な治療法は存在していない。
患者とその家系検体からBAG5遺伝子上のホモ接合型変異を複数同定
研究グループは、心臓移植を行った拡張型心筋症患者およびその家系検体を用いてエクソーム解析を行い、BAG5遺伝子上のホモ接合型変異を複数同定。同変異を有する拡張型心筋症患者は、完全浸透で心臓移植を要する重症心不全を発症していた。これまでにBAG5は、分子シャペロンであるHSC70の機能を活性化する、コシャペロンとしての機能が知られていた。今回同定したBAG5遺伝子変異は、HSC70との結合能を欠損させる、機能喪失型変異であることも明らかになった。
BAG5機能喪失型変異<JMCタンパク質群の品質管理機構障害<心不全
次に研究グループは、BAG5が心筋細胞内のJMC(Junctional Membrane Complex)に局在することを示し、心臓におけるBAG5/HSC70シャペロン複合体の基質タンパク質として、興奮収縮連関に重要なJMCタンパク質群を同定した。さらに、BAG5機能喪失型変異によりJMCタンパク質群に対する品質管理機構が障害され、心筋細胞の横行小管構造の破綻とカルシウムハンドリングの異常を示すこともわかった。
最後に、作製したBAG5遺伝子変異マウスは心拡大や生存率の低下を示し、心筋特異的アデノ随伴ウイルスベクターを用いたBAG5遺伝子の補充によって、これらの表現型を改善できることが明らかになった。
ゲノム情報を用いた心筋症に対する精密医療への臨床応用に期待
研究により、拡張型心筋症の新規原因遺伝子が同定され、JMCタンパク質群の品質管理障害という病態メカニズムが心不全発症につながるという新たな疾患概念が提唱された。また、BAG5遺伝子の機能喪失型変異を対象とした遺伝解析を行うことは、疾患の早期診断に対しても有用であると考えられる。「今後さらなる研究により、重症心不全を引き起こす心筋症の新たな治療法が開発されることが望まれるとともに、ゲノム情報を用いた心筋症に対する精密医療への臨床応用が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学 ResOU