自然災害という緊急時に使用される漢方薬の種類、頻度は?
広島大学は2月1日、2018年に発生した西日本豪雨の災害後、岡山県、広島県、愛媛県の65歳以上の被災者において、精神症状やBPSDと呼ばれる認知症周辺症状の改善に用いられる漢方薬である抑肝散の処方を受けた人が、非被災者に比べて有意に増加していたことを明らかにした。この研究は、同大大学院医系科学研究科地域医療システム学講座の石田亮子講師、吉田秀平助教、松本正俊教授、先進理工系科学研究科の鹿嶋小緒里准教授、北広島町八幡診療所の岡崎悠治医師らの研究グループによるもの。「Frontiers in Nutrition」にオンライン掲載されている。
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日本は世界的に珍しく、医師が伝統医薬である漢方薬を公的保険制度の中で処方することができる。一般に漢方薬は慢性的な症状に対して使用される。しかし、自然災害という緊急時において、どのような種類の漢方薬がどの程度使用されているかは明らかではなかった。
そこで研究グループは、西日本豪雨災害の被災規模が大きかった岡山県、広島県、愛媛県の医療レセプト(診療報酬明細書)データを分析。65歳以上の住民の漢方薬処方量、特に精神症状や認知症周辺症状に最もよく使用されている漢方薬である「抑肝散」の処方量の変化を災害前後の1年間で評価した。抑肝散は、神経症、不眠などに効果がある漢方薬で、興奮やイライラなどの症状、特に高齢者の認知症周辺症状によく処方されている。
被災者における抑肝散処方の増加率、その他の漢方薬に比べて高値
調査期間中に岡山、広島、愛媛の3県に所在し、かつ医療機関を受診した65歳以上の住民137万2,417人を対象者とした。このうち居住自治体から被災者と認定された1万2,787人(0.93%)について、被災後1年間で新規に抑肝散を処方されたのは125人(0.98%)で、非被災者8,913人(0.66%)と比較して有意に高い割合で処方されていた(ハザード比:1.49、95%信頼区間:1.25-1.78)。
また、対象者のうち、抑肝散とそれ以外の漢方薬処方を受けた対象者の増加率を災害前後で比較したところ、被災者、非被災者ともに、災害前に比べて災害後に漢方薬処方が増えていた。さらに被災者における抑肝散の増加率(31.4%)がその他の漢方薬の増加率(19.3%)に比べて高いことが明らかになった(p値<0.001)。
研究結果をふまえた日本固有の災害対策や診療ガイドライン策定に期待
研究結果から、自然災害により、漢方薬の適応となる各種症状、特に興奮、イライラ、認知症周辺症状などの出現頻度が高齢者で増加し、医師による漢方薬処方、特に抑肝散の処方が増加していた可能性が示された。
漢方薬は制度的にも文化的にも日本の医療に深く根差した薬剤であり、また通常の西洋薬に比べて副作用も少ないといった利点がある。こういった背景から高齢者に好まれ、特に高齢者が健康被害を受けやすい自然災害時において使用量が増加するものと推測される。「こういったエビデンスを踏まえ、日本固有の災害対策や診療ガイドラインが策定されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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