16p11.2重複における表現型の特徴や治療反応性は十分に検討されていなかった
名古屋大学は2月1日、染色体16p11.2領域のコピー数が通常の2コピーから3コピーに増える変化(16p11.2重複)を持つ統合失調症(SCZ)患者2例と自閉スペクトラム症(ASD)患者2例を同定し、後方視的に臨床経過を調査。その結果、この4例の臨床経過の中で、主診断以外の多様な精神症状を呈すること、また、SCZ患者2例は薬物治療に抵抗性を示すことを確認したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科精神医学の尾崎紀夫教授、久島周病院講師、大学院生の林優らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」電子版に掲載されている。
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ゲノムコピー数バリアント(CNV)は、ゲノムバリアントの1つであり、頻度のまれなCNVには、精神疾患や神経発達症の発症リスクに関連するものがある。その中の1つ、16p11.2重複は、その重複領域に20~30の遺伝子を含み、そのうちのいくつか(MAPK3、KCTD13、TAOK2など)は、神経細胞の発達に重要な役割を果たすことが知られている。
これまでのゲノム研究の知見から、16p11.2重複は、知的能力障害(ID)、自閉スペクトラム症(ASD)、統合失調症(SCZ)、注意欠如・多動症(ADHD)、双極性障害(BP)の発症リスクと関連することが知られていた。一方で、一人ひとりの患者について診断名以上の詳細な臨床情報の報告は乏しく、精神医学的な表現型の特徴や治療反応性は十分に検討されていなかった。
16p11.2重複の精神症状は、個々の患者で多彩に変化することを確認
そこで研究グループは今回、これまでの先行研究で同定された16p11.2重複を持つSCZ2例(症例1と2)とASD2例(症例3と4)について、発達歴、発症年齢、精神症状(診断閾値以下の精神症状を含む)、入院期間、治療歴と治療反応性、脳画像所見、血液検査結果、認知機能検査結果などを含む詳細な臨床情報を、後方視的に検討した。
その結果、症例1は幼少時にASDやADHDの症候を示し、6歳時の知能検査で軽度のIDと診断された。20歳でSCZを発症し、その後BPに関連した躁症状や抑うつ症状を認めた。薬物治療の効果が乏しく、治療抵抗性のSCZ患者であり、15年以上の入院歴があった。症例2も、治療抵抗性のSCZ患者で、30年以上にわたる入院歴を認めた。症例3は、ASDとADHDと診断された女児だが、幼少時から強いこだわりや感覚過敏を持ち、衝動性が強く、学校では授業に集中して取り組むことが困難だった。症例4も、幼少期にASDとADHDと診断されたが、その後の発達過程でSCZに認められる妄想やBPに特徴的な躁症状を認めた。
このように、16p11.2重複を持つ患者の精神医学的な診断名は一定ではなく、さらに個々の患者の臨床経過の中でも臨床症状が多彩に変化することが示唆された。
16p11.2重複と治療抵抗性SCZが関連している可能性
その背景に16p11.2重複以外の他のゲノムバリアントの影響が考えられたため、4症例の全ゲノムシーケンス解析を実施したが、精神疾患に関連する他の病的バリアントは同定できなかったという。また、SCZと診断された症例1と2に関しては、SCZの薬物治療(主にドーパミン受容体阻害作用を持つ薬)を十分に行っても症状の改善が認められず、16p11.2重複と治療抵抗性SCZとの関連が示唆された。
16p11.2重複に関する報告の蓄積で、エビデンスに基づく治療法確立に期待
2021年10月にアレイCGH法が保険適用となり、臨床現場で16p11.2重複を調べることが可能になった。「それに伴い、今後、16p11.2重複を有する精神疾患患者の報告が増えると見込まれるが、本ケースシリーズのような詳細な臨床経過記録がさらに蓄積していくことで、16p11.2重複を有する患者の詳しい臨床経過が明らかになり、エビデンスに基づいた治療法の確立にも役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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