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アルツハイマー病疾患修飾薬「長期的な効果を見極めつつ日本でも使用開始を」

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2022年02月01日 PM01:00

第40回日本認知症学会学術集会が2021年11月26日~28日に都内で開かれ、同学会理事長の岩坪威氏(東京大学大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 神経病理学分野 教授)が講演した。岩坪氏はアルツハイマー病の根本的な治療を目指す疾患修飾薬※1について、「日本での使用開始にあたっては、継続的な投与による効果を見極めることが大切だ」と話し、国内での使用開始と長期的な投与による治療効果に期待を示した。なお、岩坪氏の講演は26日に行われた。

※1 疾患のメカニズム(原因)に介入し、疾患の進行を抑制する治療薬である。

アデュカヌマブ第Ⅲ相試験結果の差異、「総投与量の違いなどが影響した可能性」

アルツハイマー病患者の脳では、タンパク質であるアミロイドβやリン酸化タウが線維化し、蓄積することが知られている。

これまで上市されてきたアルツハイマー病の治療薬は病気の進行を遅らせる症状改善薬のみで、発症のメカニズムにはたらく疾患修飾薬の開発は難航していた。そのような中、2021年6月に米食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)が疾患修飾薬として抗アミロイドβ抗体医薬のアデュカヌマブ(商品名:※2を迅速承認し、アルツハイマー病克服への期待が高まっている。

一方で、FDAは同薬の臨床的有用性を実証するため、製造元である米バイオジェン・インクに対して承認後にもランダム化比較試験※3の実施を求めている。理由としては、同薬の第Ⅲ相試験※4であるEMERGE試験、ENGAGE試験※5の中間解析で無益性が示唆され2019年に治験が中止となった経緯や、その後に行われた解析で有効性が認められたのはEMERGE試験に限られていたことが挙げられる。


日本認知症学会で講演する岩坪氏

EMERGE試験、ENGAGE試験に参加した被験者の背景やベースラインの特性に差がないにもかかわらず両試験の結果に差異が出たことについて、岩坪氏は講演で、「さまざまな要因がある」としたうえで、「急速進行性の患者の偏在や、総投与量の違いによる影響が大きいのではないか」と指摘した。

なお、EMERGE試験は2015年9月~2019年8月、1,638例(プラセボ群※6548例、低用量群543例、高用量群547例)を対象に実施1)。ENGAGE試験は2015年8月~2019年8月、1,647例(プラセボ群545例、低用量群547例、高用量群555例)を対象に実施した2)

急速進行性の患者とは、CDR-SB(Clinical Dementia Rating – Sum of Boxes)※7が18か月で8を超える悪化を示した例を指す。急速進行性の患者はENGAGE試験の高用量群のみで9例存在しており、「この偏在が結果に影響を与えている」との考えを述べた。ENGAGE試験の低用量群やプラセボ群、EMERGE試験の3群ではそれぞれ4~5例ずつ存在していたという。

総投与量の違いについては、「試験開始後のプロトコル変更により、それまで副作用の懸念から投与量が控えられていた例に対しても増量が可能となったことが関係している」とし、「EMERGE試験はENGAGE試験に比べ進行が約1か月遅れており、増量の対象となった例が多かったようだ」と説明。十分な用量の投与を継続する必要性を述べた。

※2 脳内のアミロイドβプラークを減少させることにより、アルツハイマー病の病理に作用する世界初の治療薬である。
※3 研究の対象者を2つ以上のグループにランダムに分け(ランダム化)、治療法などの効果を検証すること。
※4 有効性・安全性を確認することを目的とした大規模な試験で、承認を取得するための臨床試験の最終ステップである。
※5 EMERGE試験および ENGAGE試験は、アデュカヌマブの有効性と安全性を評価する多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験。主要評価項目は、CDR-SBのスコアの変化によって測定される認知機能および機能障害の低下抑制における、プラセボと比較したアデュカヌマブ月1回投与の有効性評価である。
※6 被験薬と見分けがつかないが、有効成分が入っていない偽薬を投与した群である。被験薬の薬理作用以外による影響をコントロールする。
※7 認知機能と日常生活の障害を包括した指標。認知症の重症度を判定するスケールであるCDRでは、記憶、見当識、判断力・問題解決、社会適応、家族状況・趣味、介護状況の6項目について、患者の診察や周囲の人からの情報で評価する。これらの合計点がCDR-SBのスコアとなる。

中等度・重度認知症患者の医療ニーズを満たす重要性も指摘

岩坪氏はまた、アデュカヌマブ以外でも疾患修飾薬の開発が加速していることを紹介した。※8の第Ⅱ相試験※9の結果3)では、iADRS(Integrated Alzheimer’s Disease Rating Scale)スコア※10を評価したところ、ドナネマブ群で32%増悪が抑制されていたという。アミロイドβの蓄積について評価したアミロイドPET検査では、最終的にドナネマブ群の約7割で陰性域に達していた。

※11のP2試験(第Ⅱ相試験)4)については、同薬の研究を主導している製薬企業のエーザイ株式会社が開発した評価指標ADCOMS(Alzheimer’s Disease Composite Score)※12が用いられ、「スコアの差が30%出たと報告されている」と紹介。アミロイドβの蓄積はレカネマブ群の8割以上で陰性域に達したという。

岩坪氏は、アデュカヌマブやドナネマブ、レカネマブといった抗アミロイドβ抗体医薬の開発が順調に進んでいる要因として、「早期認知症患者や軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の人を被験者としたことが大きかったのではないか」との見解を示した。さらに「アミロイドPET検査※13の実用化が進み、従来の治験で25%程度混在するとされていたアルツハイマー病ではない例を除外することができるようになった」ことや、「副作用として懸念されていたARIA-E※14の管理ができるようになり、薬剤の有効性を発揮するために必要な高用量の投与が可能になった」ことを挙げた。

岩坪氏はまた、「抗アミロイドβ抗体医薬の投与対象者は早期アルツハイマー病患者になるだろう」としたうえで、「同薬の適応とならない中等度から重度認知症患者に対する薬物治療やケアのニーズを満たしていくことは非常に重要なミッションだ」と強調した。

さらに、国内での抗アミロイドβ抗体医薬の実用化に向けては、「PET検査・バイオマーカーを用いた診断体制や治療提供体制を全国で均てん化する必要がある」と指摘。「日本で同薬の使用を開始するにあたっては、継続的な投与によってどのような効果があるのかを見極めることが大切だ」と長期的な投与による治療効果に期待を示した。

疾患修飾薬が上市されれば、臨床現場で投与の対象となる患者のスクリーニングを行う必要性も出てくる。最近では、血液検査を用いてアミロイドβやタウの測定が可能になってきていることから岩坪氏は、「まだまだデータが必要だ」と前置きしつつ、「まずは血液でスクリーニングを行い、その後精密検査としてPET検査を実施する流れになる可能性はある」との考えを提示。「血液検査は、現在スクリーニングで使用しているPET検査や脳脊髄液検査よりも簡便に広く行えるので、適切に使えば大きな力になるだろう」と話した。

※8 米イーライリリー・アンド・カンパニーが開発中の抗体医薬である。
※9 治療効果の探索が主な目的で、比較的少人数の患者を対象として行われる。
※10 認知機能と日常生活活動度を組み合わせた複合臨床評価スケール。
※11 エーザイ株式会社と米バイオジェン・インクが開発中の抗体医薬である。
※12 早期アルツハイマー病の変化を感度よく検出することを目的として開発された複合臨床評価指標。
※13 脳に蓄積したアミロイドβを画像として可視化する検査。
※14 アルツハイマー病患者の神経画像に見られる異常な差異であるアミロイド関連画像異常(ARIA)のうち浮腫性変化を指す。

1)U.S. National Library of Medicine ClinicalTrials.gov. 221AD302 Phase 3 Study of Aducanumab (BIIB037) in Early Alzheimer’s Disease (EMERGE).
[https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02484547](2021年12月27日閲覧)
2)U.S. National Library of Medicine ClinicalTrials.gov. 221AD301 Phase 3 Study of Aducanumab (BIIB037) in Early Alzheimer’s Disease (ENGAGE).
[https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02477800](2021年12月27日閲覧)
3)Mintun MA, et al: Donanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2021;384(18):1691-1704. doi: 10.1056/NEJMoa2100708.
[https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2100708](2021年12月27日閲覧)
4)Chad J. Swanson, et al: A randomized, double-blind, phase 2b proof-of-concept clinical trial in early Alzheimer’s disease with lecanemab, an anti-Aβ protofibril antibody. Alzheimers Res Ther. 2021;13(1):80. doi: 10.1186/s13195-021-00813-8.
[https://alzres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13195-021-00813-8](2021年12月27日閲覧)

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