認知症発症に肥満・糖尿病の関与が示唆されるが、神経新生への作用機構は不明
岐阜大学は1月24日、アルツハイマー病および肥満モデルマウスを用い、肥満の長期化に伴い海馬において小胞体ストレスが活性化すること、認知機能に重要な海馬神経新生細胞に発現するダブルコルチンmRNAが小胞体ストレス誘導性マイクロRNAにより分解されることを確認したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の中川敏幸教授と再生医科学専攻博士後期課程の中川潔美大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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日本では、高齢者の25%が認知症またはその予備群とされ、認知症有病率は85歳以上で年齢とともに40%から80%に増加する。さらに、超高齢化社会を迎える日本においては、認知症との共生および発症を遅らせ進行を緩やかにする予防法の開発が喫緊の課題だ。
認知症に対する運動の効果として、マウス海馬歯状回の神経新生と脳由来神経栄養因子の誘導が期待されている。しかし、認知症発症の危険因子について、神経新生への作用機構を示したエビデンスはほとんどない。高齢者の認知症発症に、運動不足(寄与率:3%)や肥満・糖尿病(各寄与率:1%)が関与することが示唆されていることから、研究グループは、長期の肥満マウスを作製し、海馬神経新生への作用の検討を行い、神経新生細胞の分化に対する長期肥満の作用機構を調べた。
長期肥満マウスで小胞体ストレスシグナル活性化、ダブルコンチンの神経突起短縮
研究グループは、まず、アルツハイマー病モデルマウスと野生型マウスに高脂肪食の餌を長期間(各43週間、67週間)与え、長期間継続する肥満・糖尿病マウスを作製した。また、レプチン受容体欠損マウスは6週齢で肥満を認め、60週齢までのマウスを解析した。長期肥満マウスの認知障害を物体位置認識試験で解析したところ、移動させた物体の探索時間が有意に短くなり、行動の異常を確認した。
さらに、長期肥満マウスの海馬において、小胞体ストレスシグナルの活性化をウエスタンブロットと免疫組織染色にて確認し、未分化神経細胞に特異的に発現するダブルコルチンの神経突起が長期肥満マウスにおいて短いことも確認した。
未分化神経細胞に特異的に発現するダブルコルチンmRNAの減少も確認
また、研究グループはマウス海馬から神経幹細胞を培養し、分化中の細胞に小胞体ストレス刺激を行い、ダブルコルチンの発現を調べた。その結果、ダブルコルチンのmRNAが減少することが判明した。この減少がDicerのノックダウンにて回復することから、小胞体ストレス刺激後にRNA抽出を行い、マイクロRNAシークエンシングにてコントロールと比較した。すると小胞体ストレス刺激をした未分化神経細胞にて、miR-148a-5p、miR-129b-3p、miR-135a-2-3pの発現増加とmiR-1247-3pの減少を確認した。
小胞体ストレスシグナル経路を制御する方法の開発を目指す
今回の結果に基づき、研究グループは「海馬神経新生-小胞体ストレスの活性化-マイクロRNAの発現-ダブルコルチンmRNAの分解」を認知症の発症を遅らせ進行を緩やかにするターゲットとし、このシグナル経路を制御する方法の開発を目指すとしている。さらに、「今回の研究成果が、潜在的に予防可能な認知症発症危険因子の病態解明への一助になることを期待する」と、研究グループは述べている。
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