軽度の高血圧性網膜症と循環器病発症リスクとの関連は不明だった
国立循環器病研究センターは1月15日、都市部地域住民を対象とした吹田研究を用い、軽度の高血圧性網膜症とその後の循環器病発症リスクとの関連について検討した結果を発表した。この研究は、同センター健診部の小久保喜弘特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Atherosclerosis and Thrombosis」に掲載されている。
画像はリリースより
2019年の人口動態統計によると、高齢者(65歳以上)の人口10万人当たりの死亡率は、がんに次いで循環器病が第2位を占めている。また、高齢者で介護が必要となった主な原因でも循環器病が第1位を占めており、循環器病の予防対策が極めて重要であることがわかる。
特定健診が開始される前までは、健康診査時に全員の眼底検査が実施されており、中等度または高度の高血圧性網膜症は、その後の循環器病発症予測になっていた。しかし、国内の眼底検査と循環器病との関係ついての論文はあまりなく、軽度の高血圧性網膜症に関するエビデンスはまだ乏しい状況だった。
軽度の高血圧性網膜症でも循環器病の発症リスク「高」
研究グループは今回、吹田研究の参加者である30~79歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に循環器病の既往がある人を除外した7,027人(男性3,261人、女性3,766人)を対象として、循環器病の新規発症を追跡した。その結果、平均17年の追跡期間中に、598人の循環器病の発症を観察した(脳卒中351人、虚血性心疾患247人)。
高血圧性網膜症はKeith-Wagener-Barker分類に基づき、正常(網膜症の所見なし)群と比べて、軽度所見(網膜細動脈に軽度の狭窄や硬化を認める、または網膜細動脈に中程度〜著しい狭窄、中程度の硬化を認める)群の循環器病発症の危険度を計算した。その結果、正常群と比べて、軽度所見群では循環器病と脳卒中の新規発症がそれぞれ24%、28%増加した(循環器病:調整ハザード比1.24、95%信頼区間1.04~1.49; 脳卒中:調整ハザード比1.28、95%信頼区間1.01~1.62)。
また、眼底細動脈のびまん性狭細と血柱反射群において、循環器病の新規発症がそれぞれ24%、33%増加(びまん性狭細:調整ハザード比1.24、95%信頼区間1.00~1.54;血柱反射:調整ハザード比1.33、95%信頼区間1.02~1.74)。さらに、正常血圧者(収縮期血圧140mmHg未満かつ拡張期血圧90mmHg未満かつ降圧剤服用履歴なし)においても、軽度の高血圧性網膜症を有する群において、新規脳卒中発症が48%増加した(調整ハザード比1.48、95%信頼区間1.01~2.18)としている。
眼底検査で循環器病発症を予測できる可能性
現在、日本の特定健診・特定保健指導における眼底検査は、循環器病重症化の進展の評価のため、特定健診の結果に基づき、血圧・血糖の基準に該当した者で実施される。しかし今回の研究結果により、これまでの欧米と日本の研究と一致し、軽度の高血圧性網膜症と循環器病発症リスクとの関連が示された。さらに、その関連が血圧と糖尿病などの危険因子からも独立していることが明らかにされた。
また、国内の先行研究で、軽度高血圧性網膜症と循環器病死亡リスクとの関連が示されていたが、今回の研究では、高血圧の有病率の低い都市住民において、眼底検査により循環器病発症を予測できるというエビデンスが初めて示された。
「本研究は、特定健診・特定保健指導の現場で、中等度または高度の高血圧性網膜症だけではなく、軽度の高血圧性網膜症も循環器病予防に意義がある所見となる可能性が示唆された。眼底細動脈狭細の進展は、早期高血圧と仮面性高血圧患者でも報告されており、今回のエビデンスをふまえ、特定健診・特定保健指導の眼底検査の必要性を再検討することは、今後の課題と考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース