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表皮幹細胞はDNAに傷が入ると周囲の幹細胞によって除かれると判明-東京医歯大

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2022年01月27日 PM12:00

ゲノムストレスを受けた皮膚の幹細胞が処理される仕組みを探る

東京医科歯科大学は1月27日、上皮が持つ幹細胞の品質管理機構を発見したと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所幹細胞医学分野の西村栄美教授(東京大学医科学研究所老化再生生物学分野教授兼任)と加藤智起大学院生らの研究グループが、ハーバード大学、慶應義塾大学などとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Developmental Cell」に掲載されている。


画像はリリースより

哺乳類の多くの組織には組織幹細胞が存在し、日々失われる細胞を自己複製や分化を介して補充することで、組織の恒常性を維持している。DNAに損傷をひきおこす遺伝毒性ストレス(ゲノムストレス)は幹細胞から生じる子孫細胞全体へと影響を及ぼし恒常性の破綻へとつながるため、受精卵から成体組織に至るまで、幹細胞のゲノム完全性の維持は生命にとって極めて重要だ。一般的に、DNA二本鎖切断(DSB)などの細胞毒性の強いゲノムストレスが致死量に至ると細胞死を誘導する一方で、非致死的な場合にDNA損傷応答を経て細胞周期を不可逆的に停止する「」(cellular senescence)に至ったり、最終的にがん化に至ったりすると考えられている。しかし、紫外線など日常的に経験するようなDNA二本鎖切断(DSB)を受けた細胞が、生体内で実際にどのような運命をたどっているのかについては、明らかにされていなかった。

皮膚の最外層に位置する表皮組織の最下層(基底層)には表皮幹細胞が存在し、自己複製しながら分化細胞を非基底層に供給することで外界との境界面でバリアとして働いている。表皮幹細胞は紫外線などのゲノムストレスに日々暴露されているが、健常な若い個体の皮膚では、日焼けしても急激な老化やがん化は生じない。そこで研究グループは、表皮組織ではゲノムストレスを受けた幹細胞を選択的に処理する未知の仕組みが存在する可能性を想定し、研究を行った。

ゲノムストレス<Notchシグナル亢進<非基底層へ移動<排除

研究グループは、マウスの皮膚が薄く赤くなる程度の紫外線量では、有意にアポトーシスを誘導しないことを確認したうえで、紫外線1回照射後の表皮組織の変化を経時的に観察した。先行研究の結果通り、紫外線照射後は表皮幹細胞の増殖が亢進し、表皮の厚みが増す一方で、表皮幹細胞の数は変化しなかった。また、DNA二本鎖切断(DSB)によるDNA損傷応答に伴うフォーカス形成が表皮幹細胞の存在する基底層に多く誘導された後に、分化細胞の存在する非基底層へと分布が変化する像を見出した。これらの結果より、ゲノムストレスを受けた表皮幹細胞は基底層から非基底層へ移動し、最終的に組織から消失している可能性が示唆された。

さらに、一部の表皮基底層にのみDSBを誘導し、かつ、その細胞の運命を遺伝学的に追跡可能なマウス(iDSBマウス)を用いた、ゲノムストレスを受けた細胞の追跡システムを新たに構築し、それらの細胞の運命を解析した。その結果、DSBを誘導された表皮幹細胞は、分裂せずに基底層を離れて非基底層へと移動し、1か月以内に表皮組織から消失することが明らかになった。また、DSBを誘導した直後(該当の細胞が基底層に存在しているタイミング)に解析を行った結果、DSB誘導によりp53の発現およびリン酸化が誘導され、表皮幹細胞の分化を促進するNotchシグナルが亢進すること、および細胞増殖の停止に関与するp21の発現が亢進することが示された。

周囲の無傷の表皮幹細胞が積極的に組織から排除していた

また、iDSBマウス中に存在する、DSBの誘導されていない表皮幹細胞を解析した結果、均等分裂が亢進し幹細胞クローンのサイズが増加していることが判明。さらに、紫外線を照射したマウスにおいても同様の現象が生じていたことから、一部の表皮幹細胞がゲノムストレスを受けた場合、周囲の無傷の表皮幹細胞がそれらを積極的に組織から排除し、上皮細胞集団として自律的な品質管理を行っていることが示唆された。

過去の研究では、ゲノムストレスを受けた細胞を特異的に可視化し追跡することができなかったため、それらの細胞は「アポトーシスなどによる細胞死とその貪食により処理される」か、「不可逆的に増殖を停止して(細胞老化)組織に残る」か、「DNA損傷修復を受ける際に変異を獲得してがんの発生源になる」と考えられてきた。

加齢関連疾患の予防や治療への応用に期待

今回の研究では、新たに開発した、DNA損傷を受けた表皮幹細胞の追跡システムを用いた解析の結果、これらの細胞は細胞周期を停止し最終分化へとコミットし(老化分化と命名)組織から排除されることが明らかになった。このことから、上皮が自律的に幹細胞を選択し、そのゲノム品質を管理する機構を備えており、上皮自身が早期の老化やがん化を防いでいることが明らかになった。

今回の研究において、細胞毒性の強いDNA二本鎖切断(DSB)を受けた幹細胞はp53-Notch-p21シグナルを介して老化分化することが判明したが、加齢した皮膚ではp53やNotchの変異クローンが定着しやすいことから、上記機構の回避によりがん化リスクを亢進させていると考えられる。今回発見した選択機構が哺乳類の表皮に限らず種や系譜を超えて広く多細胞生命のゲノム品質管理を担っているのか、普遍性の検証が待たれる。また、加齢関連疾患の予防や治療への応用が期待される。

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