患者から分離したオミクロン株の性状を、感染モデル動物で従来株と比較
東京大学医科学研究所は1月24日、感染患者から分離したオミクロン株の性状を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の動物モデル(マウスおよびハムスター)を用いて評価、従来の流行株と比較した結果、オミクロン株は、マウスやハムスターの上気道および下気道部で増殖するものの、その増殖力と病原性は従来の流行株よりも低下していることが明らかになったと発表した。この研究は、同研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループが、東京大学、国立感染症研究所、米国ウィスコンシン大学、国立国際医療研究センター、米国ワシントン大学、米国マウントサイナイ医科大学、米国エモリー大学、米国国立衛生研究所、米国ユタ州立大学、米国ウィスコンシン州立衛生研究所、コロンビア国立大学、米国アイオワ大学、米国セントジュード小児研究病院との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Nature」オンライン速報版に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルスは、宿主細胞表面のウイルス受容体(ヒトのアンジオテンシン変換酵素II:ヒトACE2)にスパイクタンパク質を介して結合することで感染を開始する。2021年11月に、スパイクタンパク質に少なくとも30か所の変異を有するオミクロン株が南アフリカで初めて確認された。世界保健機関(WHO)は、同年12月にオミクロン株を懸念すべき変異株(Variants of concern; VOC)に指定した。2022年1月現在、オミクロン株の流行は世界110か国以上に拡大し、その感染者は日本も含めた世界各国で爆発的に増加している。
ウイルス感染にとって重要な役割を担うスパイクタンパク質上の変異は、既存のワクチンや治療薬の効果を減弱させる可能性や、病原性や伝播力を変化させる可能性があるが、オミクロン株の基本性状は明らかにされていなかった。そこで研究グループは、COVID-19感染モデル動物のマウスとハムスターを用いて、患者から分離したオミクロン株の増殖能と病原性を従来の流行株と比較した。
感染モデルマウスとハムスターで、肺での増殖能と病原性が従来株より低かった
マウスの肺や鼻におけるオミクロン株の増殖能は、ベータ株(南アフリカで最初に検出され、標準株と比較して伝播効率が上昇していることが推測されており、オミクロン株が確認されるまでは、VOCに分類されるウイルスの中で、標準株から最も抗原性が離れたウイルスだった株)と比べて大幅に低いことが明らかとなった。また、オミクロン株を感染させたマウスでは、呼吸器症状の悪化も認められなかった。
続いて、ハムスターを用いて同様の解析を実施。オミクロン株が出現するまで流行の主流であったデルタ株(オミクロン株が出現するまで世界で最も流行していた変異ウイルス)と比較した。デルタ株感染ハムスターでは、体重減少と呼吸器症状の悪化が認められたのに対して、オミクロン株感染ハムスターでは、体重減少と呼吸器症状の悪化はみられなかった。また、オミクロン株は、ハムスターの鼻では良く増えたが、肺での増殖能はデルタ株よりも顕著に低いことがわかった。さらにコンピュータ断層撮影法(CT)を用いて、感染動物の肺を解析したところ、デルタ株感染ハムスターではCOVID-19患者で見られるような肺炎像が観察されたが、オミクロン株感染ハムスターでは、軽度の炎症しか見られなかった。ヒトのhACE2を持つハムスターにおいても、オミクロン株の病原性と増殖能はデルタ株よりも低いことが明らかとなった。
ヒトに対する病原性については今後も検証が必要
今回の研究によって、COVID-19動物モデルにおけるオミクロン株の増殖能と病原性は、これまでの流行株と比較して低いことが明らかになった。一方、動物モデルでの成績がそのままヒトに当てはまるかどうかは不明。重症化しやすい高齢者や基礎疾患を有するヒト、あるいはワクチン接種を受けていないなど新型コロナウイルスに対する免疫を持っていないヒトに対して、オミクロン株がどのような病原性を示すのか今後も検証が必要だ。
研究グループは、「今回の研究を通して得られた成果は、変異株のリスク評価など行政機関が今後のCOVID-19対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となる」と、述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース