心筋で多く発現のCRHR2、心不全発症に関連
名古屋大学は1月21日、心不全治療薬候補になり得る副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン受容体2(CRHR2)阻害剤として、経口投与可能な新規低分子化合物RQ-00490721を創出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学の森悠大学院生、竹藤幹人講師、室原豊明教授ら、ラクオリア創薬株式会社の研究グループによるもの。研究成果は、「Biomedicine & Pharmacotherapy」の電子版に掲載されている。
画像はリリースより
心臓ではGタンパク質共役型受容体(GPCR)がカテコールアミンやアンジオテンシンⅡなどの細胞外刺激に応答して心機能を調節し、心不全の病態に関与することが知られている。β受容体阻害薬およびアンジオテンシンⅡ受容体阻害薬などのGPCR阻害薬は、すでに臨床で慢性心不全治療薬として広く使用されている。これらの有効な治療法にもかかわらず、心不全の死亡率や入院率は高く、新たな治療薬の開発が求められている。ヒトの体には800種以上のGPCRが存在するが、循環器疾患との関連が不明なものや機能未知なものが未だ多く残されている。研究グループは、これらのGPCRに新たな治療ターゲットが存在する可能性を考えている。
研究グループは、先行研究により、心筋で特に多く発現するCRHR2が心不全の発症に関わることを見出している。そこで今回の研究では、新規の経口型CRHR2阻害薬の創出に向けた創薬研究を実施した。
経口投与可能な新規低分子化合物RQ-00490721を創出
構造活性相関研究から、CRHR2に対して強い阻害活性を有する低分子化合物RQ-00490721を創出。RQ-00490721は、CRHR2発現細胞を用いた阻害評価において、ウロコルチン2(Ucn2)によるCRHR2の活性化を強く阻害することが確認された。
さらに、薬物動態評価から、RQ-00490721をマウスに経口投与した際の血中濃度は、細胞で阻害活性を示す濃度を大きく上回ることを確認。また、経口投与によるバイオアベイラビリティは、ほぼ100%で消化管からの吸収が非常に良いことが明らかとなったという。これらの結果から、RQ-00490721が経口型のCRHR2阻害剤として開発を進め得る有望なリード化合物であることが示された。
RQ-00490721投与群、溶媒群と比べTACによる心肥大および心機能低下を抑制
続いて、RQ-00490721の生体内における薬理効果を検証するために、マウスの横大動脈狭窄(TAC)手術による心不全モデルを作製し、圧負荷による心不全発症に対する薬効を評価。心肥大が進行するとされる術後1週目から4週間、溶媒あるいはRQ-00490721を経口で投与したTACマウスの心不全症状を検討。その結果、RQ-00490721を投与した群では溶媒群と比べ、TACによる心肥大および心機能低下が抑制されていることが示された。
心肥大の指標としては、TAC5週目に摘出した心臓サイズ、左心室重量/脛骨長比(LVW/TL)、左心室における脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)のmRNAレベルのいずれの項目でも、溶媒群と比して、RQ-00490721群で心肥大が抑制されたことを示唆する結果が得られた。さらに、心エコー検査からは、心機能の指標となる心収縮率(Fractional shortening)が溶媒群では経時的に低下していく一方で、RQ-00490721群では心不全への進行が抑制されることがわかった。
RQ-00490721群、心筋細胞の肥大化・線維化を有意に抑制
また、持続的な圧負荷は心臓の肥大化だけでなく、心筋の線維化も引き起こすとされている。そこで、TAC手術により肥大した心臓の組織病理解析を実施。その結果、RQ-00490721群では心筋細胞の肥大化に加え、線維化も有意に抑制することが示された。
以上の結果から、RQ-00490721は経口投与により、圧負荷誘発の心不全モデルマウスにおいて心不全を抑制する薬効を示すことが明らかになった。なお、同化合物のマウスへの4週間連続経口投与に伴う明らかな副作用は認められず、さらなる長期投与も十分に許容される可能性があることが示唆されたとしている。
今後、RQ-00490721長期投与での予後改善効果など研究へ
今回の研究結果から、経口型CRHR2阻害薬が将来のヒトにおける慢性心不全の新たな治療薬となる可能性が示唆された。研究グループは今後、RQ-00490721の長期投与における予後改善効果や、治療対象となる慢性心不全の適切な病態を把握するため、さらなる創薬研究を推進するとしている。
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