医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 関節リウマチの進行予測にポリジェニックリスクスコアが有用-東京医歯大ほか

関節リウマチの進行予測にポリジェニックリスクスコアが有用-東京医歯大ほか

読了時間:約 3分1秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年01月24日 AM11:30

ACPAやHLA領域が関節破壊と関連するが予測精度は十分でない

東京医科歯科大学は1月20日、ポリジェニックリスクスコアが、関節リウマチのX線画像の進行と関連することを世界で初めて示したと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所ゲノム機能多様性分野の高地雄太教授の研究グループが、、理化学研究所生命医科学研究センターとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Arthritis & Rheumatology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

関節リウマチは、免疫の異常により関節の骨や軟骨が破壊される疾患。関節リウマチの治療は近年急速に進歩したが、それでも関節破壊が進行する患者がいる。あらかじめ予測できれば患者に合わせた治療強度を選択でき、関節破壊の進行・重症化をより効果的に抑えられると考えられる。これまでの研究では、抗シトルリンタンパク質抗体(ACPA)やHLA領域が関節の破壊と関連することが示されていたが、その予測精度は十分ではなく、いまだ患者の病態に基づいたオーダーメイド医療は困難だ。

ポリジェニックリスクスコア(Polygenic risk score:)は、各患者のもつ遺伝的なリスクの積み重なりをスコア化して、病気の発症や進展を予測する手法で、このスコアを用いた研究が近年盛んに行われている。このスコアは、疾患との関わりが強い遺伝子だけではなく、小~中程度の遺伝子もスコアに取り入れているという特徴があるため、より予測の精度が高まると期待されている。

PRSが関節破壊の予測指標になると判明、若年発症で顕著

今回研究グループは、まず、PRSがどれほど骨破壊の予測指標となるかを調べた。次に、今まで用いられてきた指標であるACPAおよびHLA領域とPRSを比較した。最後に、PRSと診療で用いる指標を組み合わせて、関節破壊をどれほど予測できるかを調べた。

まず関節破壊が進行した群としていない群のPRSを比較したところ、この2つの群のもつスコアに明らかな差を認めた。この傾向は患者を発症年齢に応じて3つのグループ(;≦40歳、中年発症;>40歳,≦60歳、高齢発症;>60歳)に分け、若年発症群のみで解析すると顕著になった。

さらに、このスコアが関節破壊を分類する能力ROC曲線を用いて数値化した。患者を発症年齢に応じて3つのグループ(若年発症、中年発症、高齢発症)に分けると、特に、若年発症群で関節破壊を分類する能力が高いことがわかった。

若年発症ではPRSがACPAやHLA領域より優れた予測因子

次に、PRSに応じて患者を5つの群に分けて、重度進行群に分類されるリスクを比較した。PRSが最も高い群は最も低い群と比べて、進行群に分類されるリスクが約2倍だった。また、若年発症に限定して解析を行ったところ、最も高い群は最も低い群と比べて、進行群に分類されるリスクが約5倍だった。

さらに、関節破壊の進行に関連する要因として知られているACPAおよびHLA領域とPRSを比較。全患者での解析では、PRSはACPAと同等の識別力があり、若年発症群に限定した場合はACPAやHLA領域よりも優れた識別力を示した。

最後に、ロジスティック回帰モデルを用いて多変量解析を行い、PRSと他の因子(発症年齢、性別、喫煙歴、ACPA、リウマチ因子、BMI、歯周病、関節リウマチの薬、HLA領域(Ser11))を組み合わせることで、識別力が向上するかを調べた。その結果、PRS、性別(女性)、ACPA、BMIは関節破壊の進行に関連する独立した危険因子であることと、他の因子と組み合わせると識別力が向上することが示された。

今後の関節リウマチのゲノム情報に基づいたオーダーメイド医療の礎に

今回の研究は、PRSが、関節リウマチの骨破壊の進行と関連することを示した初めての研究となる。その識別力は特に若年発症者の場合に今まで報告されていたリスク因子よりも優れていることがわかった。さらに、PRSと他の臨床情報を組み合わせたモデルでは、PRSが独立した関節破壊のリスク因子であることがわかり、識別力は向上した。疾患との関わりが強い遺伝子のみで構築したスコアを使った過去の研究では、関節破壊との関わりを示すことはできなかったことから、疾患との関わりが小~中程度の遺伝子もスコアに取り入れることが重要であることが示された。

また、今回の研究は、関節リウマチにおけるゲノム情報を用いたオーダーメイド医療の第一歩。研究グループは今後、さらに精度を向上させる方法を模索していくとしている。現在、より細かい遺伝子の情報を手に入れられるようになっており、それらの情報を取り入れることで、さらに精度が改善する可能性がある。また、人工知能を用いて精度の改善を試みる研究も世界中でなされている。研究グループは、「我々もすでに人工知能を取り入れ、一人ひとりに合わせたオーダーメイド医療をいち早く届けられるように日々研究をしている」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大