妊婦の新型コロナウイルス感染症は非妊婦に比べて重症化しやすいのか?
国立成育医療研究センターは1月18日、妊婦の新型コロナウイルス感染症における入院例の疫学的・臨床的な特徴を分析した研究結果を発表した。この研究は、同センター感染症科の庄司健介医長と国立国際医療研究センター国際感染症センター・AMR臨床リファレンスセンター応用疫学研究室の都築慎也医長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Infectious Diseases」に掲載されている。
画像はリリースより
これまでの海外における検討では、妊婦の新型コロナウイルス感染症が、非妊婦に比べて重症化しやすいか否かについて、重症化しやすいという報告と、変わらないという報告とがあり、はっきりとした答えは出ていなかった。また、妊婦の新型コロナウイルス感染症の中で、どのような患者がより重症になりやすいのかについても情報が限られており、結論は出ていなかった。
COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)は、日本最大の新型コロナウイルス感染症関連のレジストリだ。これまで、妊婦患者に関する解析は行われていなかったこともあり、妊婦における新型コロナウイルス感染症の疫学的・臨床的な特徴の解明が求められていた。そこで研究グループは今回、COVIREGI-JPを利用し、「妊婦と非妊婦の新型コロナウイルス感染症の疫学的・臨床的な特徴の比較を行うこと」「妊婦における新型コロナウイルス感染症の中等症から重症に関連する要因を探索すること」という2つの目的について、検討を行った。
妊婦は非妊婦に比べ、家庭内での感染が多い
同研究は、2020年1月~2021年4月までの間に登録された15歳以上〜45歳未満女性の新型コロナウイルス感染症入院例4,006人を対象に実施された。期間中に3万7,138人の患者情報が登録され、そのうち妊婦は254人、非妊婦は3,752人だった。
これら対象患者の患者背景、重症度、治療内容などのデータを集計・分析。特に、妊婦と非妊婦の患者背景を「傾向スコアマッチング解析」という手法を用いて揃えた上で、重症度を比較した。また、妊婦患者を軽症群と、中等症から重症群に分け、多変量解析という手法で中等症から重症に関連する要因を探索した。
妊婦は非妊婦に比べ、家庭内での感染が多いことが判明(妊婦の39.4%、非妊婦の19.8%が家庭内での新型コロナウイルス感染症の接触あり)した。また、集中治療室に入院した患者のうち、妊婦は6人(2.4%)、非妊婦は45人(1.2%)、死亡例は妊婦1人(0.4%)、非妊婦は3人(0.1%)だった。
妊婦の方がより重症化している可能性
妊婦と非妊婦の新型コロナウイルス感染症の比較では、傾向スコアマッチング解析という手法で患者背景を揃えた妊婦(187人)と非妊婦(935人)を比較した。その結果、中等症-重症の割合が妊婦9.6%、非妊婦4.9%(P=0.0155)と、「妊婦の方がより重症化している可能性」が示唆された。
重症化した妊婦は「基礎疾患がある」「妊娠中期以降」が多い
妊婦の新型コロナウイルス感染症中等症-重症に関連する要因の探索では、妊婦患者254人を、中等症-重症(30人)と、軽症(224人)に分け、その背景を比較。その結果、「中等症-重症群の方が軽症群に比べて妊娠中期(14週〜)以降の患者の割合が高い(93.1%vs71.2%)」「何らかの基礎疾患のある患者の割合が高い(16.7%vs4.9%)」ということが明らかになった。
多変量解析でも、中等症-重症群と、軽症群の比較では、妊娠中期以降と、何らかの基礎疾患の存在のオッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ5.295(1.215-23.069、P=0.026)、3.871(1.201-12.477、P=0.023)と、それぞれ有意に中等症-重症と関連していることがわかった。
変異株が妊婦に与えている影響を検討する際の比較対象としても貴重なデータ
今回の研究により、日本の妊婦新型コロナウイルス感染症の入院症例の実態が明らかにされた。今後、妊婦に対するワクチンを含む予防や治療について考えていく上で、同研究結果が重要な役割を果たすことが期待される。
「今回の研究はデルタ株やオミクロン株の流行が始まる前のデータであるため、今後デルタ株やオミクロン株などの変異株が妊婦に与えている影響を検討する際の比較対象としても貴重なデータであると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース