急性PE後・慢性期に症状残存「post-PE syndrome」前向き観察研究
名古屋大学は1月19日、急性肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PE)発症後の慢性期の病態に関する前向き観察研究の結果を報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学の中野嘉久客員研究員、足立史郎病院助教、室原豊明教授、放射線科の岩野信吾診療教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Thrombosis and Haemostasis」に掲載されている。
画像はリリースより
急性PEは、突然発症し突然死も多くみられる疾患。近年、急性PE後の慢性期の病態について、慢性期に症状が残存するpost-PE syndromeが注目されている。Post-PE syndromeの最重症の病型が慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronicthromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)であり、予後不良な疾患だ。しかし、近年の治療方法の進歩により、多くの患者で予後の改善が見られている。そのため急性PE後に、CTEPHもしくはその前段階である慢性血栓塞栓性疾患(chronic thromboembolic disease:CTED)に進展しうる患者を早期発見し、早期に治療介入することで予後が改善すると期待され、重要な臨床課題となっている。
名大附属病院などで急性PE発症後患者を登録「Nagoya PE study」
今回のNagoya PE studyでは、名古屋大学医学部附属病院およびその関連病院で、急性PE発症後患者を登録。発症から1年後に名古屋大学医学附属病院へ受診してもらい、1年後の自覚症状、QOLスコア、運動耐容能、心エコーによる心機能評価、肺動脈造影CTなど多面的な評価を行った。
特に、肺動脈内血栓を評価については、新たなCTプロトコールで撮像することで末梢病変まで評価することが可能になった。また、放射線科の岩野信吾診療教授の協力のもと、従来から定義されている肺動脈造影CTの定量的な評価の指標であるCT obstruction index(Qanadli score)を改変した modified CT obstruction indexを作成し、微細な血栓性病変のスコア化が可能になった。
患者74%で肺動脈残存血栓
研究の結果、同研究グループが用いた詳細なCTプロトコールでの評価により、74%の患者で肺動脈残存血栓を検出。これは、過去の報告と比べ高い頻度だったという。また、CTEPH発症は3.8%の患者に見られ、こちらは過去の報告に矛盾しない結果だった。
1か月後に通常のプロトコールで確認できる程度の肺動脈内血栓が残存するケースは、有意に1年後に残存血栓を認めることが明らかになった。
最後に、診断時の心エコー検査において右心負荷所見を示唆する三尖弁逆流圧較差(tricuspid regurgitation pressure gradiant:TRPG)≥60mmHgを認める例、および左室拡張末期径がより小さい例で、1年後に残存する肺動脈血栓量が多いことが明らかになった。
薬剤間での違いなど、今後検証へ
今回の研究の結果から、急性PE後の患者では、従来よりも多くのケースで肺動脈内に血栓が残存していることが示唆された。このことは、急性PE後の抗凝固療法の継続・中止を判断するうえで非常に重要な結果となる。
同研究では、ほとんどの症例でいずれかの経口新規抗凝固薬が用いられていたが、研究グループは、「薬剤間での違いについて、また、早期発見したCTED、CTEPH症例に対する早期治療介入でどの程度予後が改善するかなど、今後検証していく必要がある」としている。
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