ビフィズス菌MCC1274の作用メカニズムと医薬品用途の可能性を探索
名古屋市立大学は1月19日、ビフィズス菌MCC1274(Bifidobacterium breve MCC1274)をアルツハイマー病モデルマウスに摂取させると、アルツハイマー病モデルマウスで見られる記憶障害が予防されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科神経生化学分野の道川 誠教授、鄭 且均准教授、森永乳業らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載されている。
画像はリリースより
アルツハイマー病は、認知症の半数以上を占める神経変性疾患で、65歳以降に発症率が増加する。20年以上かけて脳内にゆっくりとAβが凝集した老人斑が脳内に沈着し、その後タウタンパク質の凝集した神経原線維変化が神経細胞内に形成されるに伴い認知機能障害が引き起こされると考えられている。この時、脳内では神経細胞やシナプスの減少に加えて、グリア細胞の活性化、炎症などが見られ、これらが相まって認知機能障害を引き起こしていると考えられる。したがって、アルツハイマー病発症前の長い期間において、もしAβの産生ならびにアミロイド沈着を抑制し、アミロイド沈着によって引き起こされる炎症を抑制するような生活習慣や食事などのアルツハイマー病を予防する因子が明らかになれば、真に有効な予防法となる可能性がある。
ビフィズス菌MCC1274はこれまでに、軽度認知障害が疑われる人を対象とした臨床試験において、顕著な認知機能改善作用が確認されている。研究グループは今回、ビフィズス菌MCC1274の作用メカニズムの解明、ならびに医薬品用途の可能性を探索するために、アルツハイマー病モデルマウスを用いて研究を行った。
MCC1274が海馬でのAβ産生と脳内炎症を抑制し、モデルマウスの記憶障害を予防
ビフィズス菌MCC1274をアルツハイマー病モデルマウスに経口摂取させた結果、脳内のアルツハイマー病病態の発症・進行が抑制され、記憶障害を予防することを明らかにした。つまり、ビフィズス菌MCC1274経口投与群では、記憶障害が予防され、海馬でのAβ沈着やAβ産生が有意に低下した。しかし、大脳皮質ではAβ沈着やAβ産生の低下は見られなかった。
ビフィズス菌MCC1274によるAβレベルの低下メカニズムを明らかにするため、Aβ産生に関わるアミロイド前駆タンパク質(APP)切断酵素の発現を検討した結果、ビフィズス菌MCC1274投与群では、Aβ産生を抑制する酵素であるADAM10(α-secretase)の発現が増加することが判明した。ADAM10発現を増加させるメカニズムとしては、ビフィズス菌MCC1274はPKCやERKを活性化させることで、その下流にあるHIF-1αおよびCREBタンパク質の発現を増加させることが明らかになった。さらに、ビフィズス菌MCC1274投与群の海馬では、ミクログリアのマーカーであるIba1陽性細胞数が減少し、それによって炎症性サイトカインの産生も低下することが明らかになった。以上のことから、ビフィズス菌MCC1274がAβ産生と脳内炎症を抑制することにより、アルツハイマー病モデルマウスで見られる記憶障害を予防すると考えられる。
ヒトでの効果やアルツハイマー病発症後の治療効果についても検討を進める
今回の研究成果により、ビフィズス菌MCC1274のアルツハイマー病モデルマウスへの経口投与で、「記憶障害を予防すること」「海馬でのAβ沈着やAβ産生が有意に低下すること」「海馬でのミクログリアの活性化を抑制し炎症性サイトカインの産生が低下すること」が明らかになった。
同結果は、ビフィズス菌MCC1274の摂取でアルツハイマー病の発症を抑制できる可能性をアルツハイマー病モデルマウスで示したもの。これは、ビフィズス菌の経口摂取によってアルツハイマー病発症を予防できる可能性を示しており、社会的にも意義があると考えられる。
「現在、他の研究者による臨床試験も進行しており、ヒトにおいてもビフィズス菌MCC1274を摂取することにより認知機能低下の予防効果があるという結果が出てきているので、そのメカニズムを明らかにした点でも意義があると考えている。今後は、今回明らかにした予防効果のほかに、アルツハイマー病発症後の治療効果について、さらに検討を進めたいと思っている」と、研究グループは述べている。
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