新型コロナで入院した患者を対象に未解明だったスーパースプレッダーの決定要因を検討
東京医科歯科大学は1月17日、新型コロナウイルス感染症のPCR検査で高いウイルスコピー数を有し、周囲への感染を拡大するスーパースプレッダーと呼ばれる患者の決定要因について明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授の研究グループと、同大救急救命センター、同大臨床検査医学分野との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Infection」オンライン版に掲載されている。
新型コロナウイルス感染症の診断にはRT-PCR検査が重要な役割を果たし、同検査によりウイルスコピー数の定量的な評価が可能となる。2003年のSARSあるいは2012年のMERS流行時から、全ての患者が等しく感染を広げるのではなく、高いウイルスコピー数をもつ特定の患者が特に感染を広げていくことが知られていた。これらの患者はスーパースプレッダーと呼ばれ、新型コロナウイルス感染症においても高い感染力と死亡率をもつことが知られている。スーパースプレッダーを早期に同定することは、治療および周囲への二次感染の拡大防止の観点から重要だが、これまでスーパースプレッダーの決定要因については解明されていなかった。
研究グループは今回、2020年3月~2021年6月までに、中等症から重症の新型コロナウイルス感染症で東京医科歯科大学病院に入院し、少なくとも1回以上RT-PCR検査が行われた患者379人を対象とし、スーパースプレッダーを特定する要因について検討を行った。
糖尿病、関節リウマチ、脳梗塞の既往がリスクになると判明
入院患者の電子カルテの情報をもとに、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・関節リウマチ・がん・慢性腎不全・脳梗塞・心疾患・呼吸器疾患・アレルギーなどの既往歴について調査を行い、分析した。
年齢や性別、喫煙歴で調整した分析の結果、上記の既往を3つ以上重複して有する患者では、既往のない患者と比較して、ウイルスコピー数が87.1倍(95%信頼区間5.5,1380.1)高くなることが明らかになった。また、糖尿病患者では17.8倍(95%信頼区間1.4,223.9)、関節リウマチ患者では1659.6倍(95%信頼区間1.4,2041737.9)、脳梗塞患者では234.4倍(95%信頼区間2.2,25704.0)倍、ウイルスコピー数が高くなることが明らかになった。
入院時の血液検査結果の解析では、入院時に血小板とCRPが低い患者は、高いウイルスコピー数を有することが明らかになった。さらに、複数回RT-PCR検査を行った患者を分析した結果、90%以上の患者が初回または2回目の検査で最大のウイルスコピー数に達していることが判明したという。
リスクが高い患者に対し、特別な感染管理措置を入院初期段階で講じる必要性
現在、新型コロナウイルス感染症は再流行の兆しを見せているが、感染を広げる原因となり得るスーパースプレッダーを既往歴や入院時の血液検査の情報から特定することで、臨床医は個室で患者を隔離し院内感染を防ぐための注意喚起を行うなど、感染管理措置を取ることが可能になる。
また、今回の研究により、スーパースプレッダーである可能性の高い患者に対しては、特に感染の初期において注意深い感染管理措置が必要なことが示された。「本研究は、新型コロナウイルス感染症におけるスーパースプレッダーの特徴を明らかにし、院内における二次感染の拡大を予防する可能性を示した」と、研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース