2020年10月と2021年11月にがん患者調査を実施
一般社団法人CSRプロジェクトは1月18日、新型コロナウイルス感染症拡大が及ぼしたがん患者への影響調査(第2回)結果報告書を公表した。調査期間は、2021年11月12日~15日、疾患パネルを用いたWeb調査として、同団体が実施したものだ。なお、第1回調査は2020年10月12日~13日に行われた。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、生活や働き方へ大きな変化を及ぼした。また、今夏のオーバーシュート(第5波)では医療崩壊が起こり、コロナ病床のひっ迫、受療困難者の増加等が在宅医療にも影響を及ぼすなど憂慮すべき状況が続いた。新型コロナウイルス感染症の発生から1年半が過ぎ、知識や経験を得て感染予防対策や新型コロナワクチンの接種も進められてきたが、2020年同様、社会、精神、身体へ及ぼされた大きな影響が課題として考えられる。
そこで同団体は、新型コロナウイルス感染症拡大が、がん患者の治療、並びに生活に及ぼした影響について、非常事態宣言の解除前と解除後(2020年)、さらには、新年度を迎え、第5波そしてワクチン接種と進んだ(2021年)2地点において調査を実施した。
収入を伴う仕事をしていたがん患者に、診療状況の変化、ワクチン接種の状況などを調査
調査対象は、診断時および調査当時において、収入を伴う仕事をしていた、診断から5年以内のがん患者310人。平均年収400万円以上と400万円未満の2つのグループに分けて回答の収集を行った。主な調査内容は、診療状況の変化、情報の入手先、就労状況、時間、収入の変化、コロナ禍での生活面、仕事面におけるストレス、ワクチン接種の状況であった。
回答者の内訳は、男性71.6%(平均年齢59.7歳)、女性28.4%(同49.0歳)、平均年齢56.7歳、未婚31.0%、既婚69.0%。居住地は、関東地方38.1%、近畿地方17.1%、中部地方14.8.0%、九州地方10.3%、中国地方7.1%、北海道5.8%などであった。罹患部位は前立腺14.8%、大腸14.2%、乳房13.2%、胃9.7%、肺7.7%、子宮・卵巣6.8%、肝胆膵6.5%、その他(甲状腺・膀胱・精巣など)。病期は0期(11.0%)、1期(31.9%)、2期(23.9%)、3期(17.4%)、4期(7.1%)。治療実施状況は、経過観察(62.6%)、入院・手術(34.5%)、手術に向けた検査(21.9%)、抗がん剤治療(24.5%)、放射線治療中(11.6%)、ホルモン療法中(17.1%)であった。
受療変更は増加し、自己判断から医師・医療機関の判断へと変化
調査結果から、長引くコロナ禍で受療内容やスケジュールが変更されたがん患者は、2020年度調査の8人に1人から5人に1人に増加していたことがわかった。治療変更の判断は、2020年の調査結果にみられた「患者の自己判断による受療変更」から「医師・医療機関の判断による受療内容の変更」へと変化し、関連学会が示す診療トリアージが機能したと考えられた。
患者が正しい情報を得る道筋作りが重要
新型コロナウイルス感染症に係る主な情報源は、テレビやラジオ、インターネットであった。現状、さまざまな情報が玉石混交で各所に点在し、情報選択は患者自身に委ねられている。患者が科学的根拠に基づいた、正しい情報にたどりつくための道筋を作ることが重要であると考えられた。
基礎疾患枠でワクチンの優先接種ができたのは約3割
就業については、緊急事態宣言期間中も約6割が通常勤務を継続。新型コロナウイルス感染症を前提とした新しい生活へ移行した一方、長引く自粛生活は、直接的な感染不安から孤立感や経済など生活不安へと変わってきていることもわかった。
さらに、がん患者のうち基礎疾患枠でワクチンの優先接種ができたのは約3割にとどまっていたことがわかった。基礎疾患に関する定義のあいまいさや自治体ごとの対応の違い、急性期医療を中心とするがん治療など、特に若いがん患者への接種の遅れが課題と考えられた。
がん患者への「新型コロナワクチン優先接種の推進」などを提言
調査結果を踏まえ、同団体は今後に向けた提言をまとめた。「新型コロナウイルス感染症、並びに、リスクに対する正しい知識の普及と、生活困窮者に対しる経済支援を含めた対策の強化」「科学的根拠が確かな情報源、情報間に対する患者への情報伝達の道筋づくり」「がん治療が滞ることのないよう、「がん」を基礎疾患のひとつとして明確に位置づけ、新型コロナワクチン優先接種を推進する」の3点である。
最後に、国立がん研究センター・がん対策研究所の事業統括若尾文彦先生は、同調査について次のように述べている。
「新型コロナウイルス感染症感染拡大のがん患者の治療などへの影響を確認できる貴重な調査である。まず、治療の内容や予定の変更をした患者が20%で、その中には、外来の変更(43%)、検査の変更(36%)だけでなく、薬物療法の変更(16~20%)、手術の変更(18%)なども含まれており、がん医療に大きな影響を与えたと考える。変更の理由では、医療機関の判断による変更が77%であり、2020年度の調査時の58%に比べ改善されているが、自分の判断や家族・友人からの助言に基づいている患者がそれぞれ16%、7%いること、治療中の患者では、自分の判断などが4割強に増えていることから、受診や受療については自己判断をしないで必ず医療機関へ相談することを実践していただきたいと考える。
また、感染拡大中に自身や家族の感染や経済的な変化などの生活面の不安を感じている患者は63%であった。感染の不安を軽減するためには、正確な情報に基づく適切な対処が重要であると考えるが、予防対策の情報源としては、政府・自治体などの公的機関のものを利用している人が45%であった。公的機関の情報をメディア、インターネット、SNSなどから得ている場合が測れていない可能性を含めても、まだ、不十分と考える。公的機関の情報発信をさらに強化して届きやすくするとともに、がん患者を含む国民の皆さまには、信頼できるもの、活用すべきものであると理解し、まず、活用していただきたいと考える。」