実地疫学調査とHER-SYS、2つのデータから推定
国立感染症研究所(感染研)は1月13日、SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定を行い、その暫定報告を発表した。同報告は、新型コロナウイルス感染症対策に資する情報を提供することを目的としたもので、「実地疫学調査」「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」の2つのデータを用いて、それぞれ潜伏期間を推定した。
画像は感染研サイトより
実地疫学調査によるデータを「データ1」とした。データ1では、国内でオミクロン株症例に対して実施された実地疫学調査により、リンクおよび曝露日が明らかで、かつ曝露日から14日間が経過した感染ペア(N=35)のデータを用いた。曝露日から発症日までの日数を潜伏期間として検討した。
HER-SYSデータによるデータを「データ2」とした。データ2では、2022年1月7日時点に登録されたHER-SYSデータを用いて、ゲノム検査によりオミクロン株が確定されたもののうち、推定感染日および発症日に記載がある症例を抽出した。潜伏期間は推定感染日と発症日までの日数と定義した。アルファ株症例については、上記のオミクロン株症例を報告していた届出保健所からの症例に限定して、ゲノム検査によりアルファ株が確定された症例を抽出した。推定感染日と発症日の間隔が1日以上の症例を解析の対象とした。
潜伏期間中央値はオミクロン株2.9日、アルファ株3.4日
潜伏期間の確率密度関数を計算するために、観察された潜伏期間に対してGamma分布、Lognormal分布、Weibull分布のあてはめを検討し、Akaike Information Criterion(AIC)による比較で最も当てはまりが良かったGamma分布を採用して確率密度分布を算出した。また最尤推定法を用いて推定を行い、信頼区間を計算した。
結果、データ1を用いたオミクロン株症例の潜伏期間の中央値は2.9日(95%信頼区間:2.6-3.2)だった。99%が曝露から6.7日以内に発症していた。
データ2では、アルファ株症例1,118例、オミクロン株症例113例が解析の対象となった。アルファ株症例の潜伏期間の中央値は3.4日(95%信頼区間:3.3-3.6)、オミクロン株症例は2.9日(95%信頼区間:2.5-3.2)だった。感染曝露から95%、99%が発症するまでの日数は、アルファ株症例ではそれぞれ8.7日、11.9日、オミクロン株症例ではそれぞれ7.1日、9.7日だった。
99%発症までは、実地疫学調査では6.7日、HER-SYSでは9.7日と推定
今回の報告では、実地疫学調査で収集されたデータを用いた潜伏期間に対する確率密度分布の当てはめにより、中央値は2.9日と推定された。HER-SYSデータにおけるオミクロン株症例の潜伏期間が実地疫学調査と同等であることを踏まえて、アルファ株症例の潜伏期間との比較を行った。一方で感染曝露から99%が発症するまでの期間は、実地的疫学調査で収集されたデータに基づくと6.7日、HER-SYSデータに基づくと9.7日と推定された。
観察10日目までにアルファ株症例の97.4%が発症するのに対して、オミクロン株症例では99.2%が発症すると推定された。この数値はアルファ株症例の14日における発症ハザードと同等だった。またオミクロン株症例では観察7日目までに94.5%が発症すると推定された。
なお、今回行った分析には制限がある。実地疫学調査においては曝露をうけた可能性のある者すべてが含まれていない可能性があるため、潜伏期間を過小評価している可能性がある。精緻な推定値を得るには上記を加味したモデルと十分なサンプルサイズが必要だが、今回は検討できていない。HER-SYSデータにおける解析では、感染拡大の状況にあるオミクロン株症例を検討しているために、観察期間を十分にとれた症例が含まれることにより潜伏期間が変わる可能性がある。
同報告の最後には、分析に用いたデータ収集に協力をした各自治体関係者および各医療関係者に対し、謝辞が述べられている。
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