医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > AIで画像に診療情報を統合し、高精度な疾患画像判別モデルの開発に成功-東大病院ほか

AIで画像に診療情報を統合し、高精度な疾患画像判別モデルの開発に成功-東大病院ほか

読了時間:約 3分17秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年01月13日 AM11:15

超音波Bモード画像と診療情報の統合で、どの程度正確に肝腫瘤の診断ができるのか検証

東京大学医学部附属病院は1月7日、画像と数値など異なる種類のデータを同時に学習することが可能なマルチモーダル深層学習の技術を用いて、超音波画像に診療情報を統合する新しい肝腫瘤の疾患画像判別モデルを開発したと発表した。この研究は、同院検査部の佐藤雅哉講師、小林玉宜臨床検査技師、矢冨裕教授、消化器内科の中塚拓馬助教、建石良介講師、小池和彦教授(研究当時)らと、株式会社グルーヴノーツの田中孝コンサルタントらの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Gastroenterology and Hepatology」に掲載されている。


画像はリリースより

肝がんの診療ガイドラインでは、肝がん発症リスクの高い慢性肝炎や肝硬変の患者に対して、肝がん早期発見のための定期的なスクリーニング検査が推奨されている。肝がんのスクリーニングを行うために最も広く用いられる画像検査は腹部超音波検査だが、超音波検査の現状での役割は、肝臓に何らかの腫瘤(結節)が存在することを確認することで、発見された腫瘤が治療の必要な悪性の腫瘤か、治療を行う必要のない良性の腫瘤であるかの鑑別には造影剤を使用したCTやMRIなどによる血行動態的な評価が用いられる。超音波画像のみによる腫瘤の質的な診断が難しい大きな理由として、通常の超音波検査を用いた画像は血行動態評価に比べ、超音波Bモード画像の客観的な定量化が困難であることが挙げられる。腹部超音波検査画像に客観的な定量化ができるようになれば、腹部超音波検査単独で良悪性の鑑別などの質的な診断を行うことが可能となり、CTやMRI検査による被爆や医療費の削減につながる可能性がある。

画像の定量化を行う方法として近年注目されているのが、深層学習などの人工知能()技術だ。近年のAI技術は、深層学習の発展に伴い画像解析技術の精度や実用性が向上したことで、医療分野においても画像診断領域への応用が急速に進んでいる。しかし、実際の医療現場においては、画像情報以外にもさまざまな診療データが蓄積され、疾患の診断などに利用されている。そこで、画像と数値など異なる種類のデータを同時に学習できる「マルチモーダル深層学習(マルチモーダルAI)」が次の有力な新規技術として、医療分野への応用・実用化が期待されている。肝がんの有無の予測には腫瘍マーカーのほか、肝臓の線維化や炎症、患者年齢などが重要であることが知られている。研究グループは今回、マルチモーダル深層学習を用いて、これらの診療情報と超音波Bモード画像を統合させることで、どの程度正確に肝腫瘤の診断ができるかについて検討した。

超音波Bモード画像と患者情報の統合は、正診率向上に「非常に有効」

研究では、2016年4月~2018年11月までに東京大学医学部附属病院で腹部超音波検査を受け、超音波Bモード画像から指摘された1,080例の肝腫瘤(悪性腫瘍548例、良性腫瘍532例)に対して、グルーヴノーツが開発するプラットフォームを活用し、マルチモーダル深層学習の技術を用いた判別モデルの作成と精度の評価を行った。まず、1,080例の肝腫瘤を、学習を行うための訓練データ(864例)、最適な学習パラメーターを抽出するための検証データ(108例)、作成された学習モデルの精度を検証するための評価データ(108例)の3つに分けた。次に、モデル1:超音波画像のみ、モデル2:モデル1+患者背景情報(年齢、性別)、モデル3:モデル2+肝臓の炎症情報(AST、ALT)、モデル4:モデル3+肝臓の線維化情報(血小板)、モデル5:モデル4+アルブミンの5種類の腫瘍の判別モデルを作成し、精度の検討を行った。

その結果、超音波画像のみで作成されたモデル1における肝腫瘤の良悪性の正診率およびAUROC値は68.52%、0.721だった。一方、マルチモーダル深層学習の技術を用いて、超音波画像に患者背景情報(年齢、性別)を加えたモデル2における正診率/AUROC値は71.30%/0.803、さらに血液データを段階的に加えた場合の正診率/AUROC値はモデル3で87.04%/0.9547、モデル4で91.67%/0.9822、モデル5で96.30%/0.994だった。同研究から、マルチモーダル深層学習による超音波Bモード画像と患者情報の統合が、正診率を向上させるために非常に有効な手段であることが見出された。

超音波における肝腫瘤の判別だけでなく、さまざまな医療分野に応用可能

AIを用いた予測モデルの精度は、学習に用いるサンプル数に依存するため、多くのサンプルを学習に用いることで予測精度も高まる。しかし、患者を対象とする医学研究においては、同意取得の必要性や倫理的な側面への配慮から、数万人規模の患者サンプルを収集することは現実的に困難だ。そのため、今回の研究においても1,000例程の学習となり、画像情報のみのモデルでの正診率は70%弱だった。しかし、日常診療で収集可能な診療情報を、マルチモーダル深層学習を用いて統合することで、正診率を95%以上にまで向上させることに成功した。

「画像と診療情報の統合によって精度を向上させるという試みは、超音波における肝腫瘤の判別だけでなく、さまざまな医療分野への応用が可能だ。今後は他分野への応用も期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大