EPDSとMIBSの得点をコロナ流行前後で比較
済生会横浜市東部病院は1月6日、「地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究」において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行中における産後女性のメンタルヘルスの変化を明らかにしたと発表した。この研究は、同病院精神科の田久保陽司医員、辻野尚久部長、相川祐里公認心理師、吹谷和代公認心理師、東邦大学医学部精神神経医学講座の根本隆洋教授、岩井桃子公認心理師、内野敬医員、済生会横浜市東部病院産婦人科の伊藤めぐむ産科部長、秋葉靖雄レディースセンター長、東京都立松沢病院の水野雅文院長の研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Pregnancy and Childbirth」に掲載されている。
画像はリリースより
日本において、COVID-19パンデミックが周産期女性のメンタルヘルスに与えた影響を詳細に調査した報告はほとんどなかった。研究グループは、済生会横浜市東部病院で出産した女性を対象に、産後1か月健診時の、「産後エジンバラうつ病質問票(EPDS)」と「赤ちゃんの気持ち質問票(MIBS)」に関する継続的データベースを用いて、その影響を調査した。
出産時期を日本初のコロナ感染事例が発生した2020年1月16日を境として、「COVID-19流行前群」の2017年、2018年、2019年の3群と「COVID-19流行中群」の計4群に分け、EPDSとMIBSの得点をこれらの4群で比較した。その数は約4,000人だった。
コロナ流行下で「不安」上昇、「アンヘドニア」「抑うつ」低下
EPDSとMIBSの全項目の平均総得点については、4群間で統計学的に有意な差は認めなかった。また、EPDSとMIBSのカットオフを上回った割合(産後うつ病とボンディング不全が示唆される割合)も、4群間で有意な差は認めなかった。
しかし、より具体的な内容を示す下位項目の平均得点を4群間で比較したところ、COVID-19流行中群は、EPDSの不安に関連する項目得点に有意な上昇が認められた。一方、アンヘドニアと抑うつに関連する項目得点は有意に低下していた。このことから、ストレスや潜在的な脅威に対する防御反応としての心理的過覚醒状態にあることが示唆された。
同研究から、COVID-19パンデミックが産後女性のメンタルヘルスに与える影響は少なくないと言え、種々の精神疾患の発症を考慮し、その予防に努めたり、発症後においてはその予後を改善したりすることが望まれる。一方で、種々の要因で援助希求が困難になり、介入の遅れにつながることが懸念される。
WebやICTを活用した地域包括ケアシステムの構築と普及啓発が必要
妊産婦は心理社会的にも大きな変化が生じる時期であることから、不安や抑うつなどが出現しやすく、研究結果から、COVID-19流行中はそれ以前と比較してさらに不安が増大していることが明らかになった。不安の増大は必ずしも精神疾患の罹患を意味するものではなく、コロナ禍関連の種々の要因によるサポート不足などによって、「育児の方法がわからない」など現実的な問題に直面したことによる可能性もある。これらの不安を解消するためには医療レベルの対応だけでなく、地域での保健や福祉、行政レベルでの対応も検討していく必要があり、まさに地域包括的なケアとサポートが求められる。しかし、当事者とその家族にとって、適切な相談機関を見つけることは容易ではないと考えられる。
研究事業では、地域特性に対応したメンタルヘルスとそのケアシステムの在り方について、全国4か所における調査や実践活動を通じてその検討を行うプロジェクト「メイシス」(MEICIS:Mental health and Early Intervention in the Community-based Integrated care System)を立ち上げている。MEICISでは、地域相談機関検索サイト「MEICISメンタル相談室」Webサイトを作成し、産後の女性のセルフチェックと人工知能の自動回答によって、ニーズを絞り込めるシステム開発が進められている。「コロナ禍に対応した妊産婦ケアの重要性が示され、リモート環境を考慮しWebやICT(情報通信技術)を活用した地域包括ケアシステムの構築と普及啓発が必要であると考えられる」と、研究グループは述べている。
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