日本含む10か国の健常者953人の腸内細菌データ解析、各国の死亡率との関連を調査
名古屋大学は11月25日、腸内細菌Collinsella属が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染と重症化を予防する可能性があることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科(研究科長・門松健治)・オミックス医療科学の平山正昭准教授、神経遺伝情報学の大野欽司教授、西脇寛助教の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
2020年初頭からSARS-CoV-2の世界的な広がりは、世界各国で医療体制や経済に大きな打撃を与えている。SARS-CoV-2は、無症状から致死までさまざまな症状を呈する。COVID-19死亡率は年齢とともに指数関数的に増加。ワクチン未接種の場合、80歳以上の患者の10人に1人が死亡するとされている。
COVID-19死亡率と関連する他のリスク因子として、肥満、糖尿病、たばこ、過去の呼吸器感染症がある。これらのリスク因子は各国で大きく異ならないが、COVID-19死亡率には大きな差がある。死亡率は、アジアよりアメリカ、ヨーロッパで高い傾向にある。また、ヨーロッパの中でも、スペイン、イタリアで死亡率は高く、ドイツや北欧では低い傾向にある。同様に、アジアでは台湾や中国は、日本や韓国よりも死亡率が低い傾向にある。これらの違いを決めるファクターXとして、遺伝子配列の違い、BCGワクチン接種率、過去の類似のコロナウイルスへの暴露歴、生活習慣の違いなどが提唱されてきており、腸内細菌叢の違いの可能性もある。
COVID-19患者の腸内細菌解析はいくつか報告されているが、COVID-19感染によって共通して変化する細菌は同定されていない。そこで今回の研究では、地政学的な要因を排除するために日本を含むOECD10か国の健常者953人の腸内細菌データを解析。各国のCOVID-19の死亡率との関連を調べた。
アジアは平均死亡率が低くCollinsella属の平均相対比率が高いエンテロタイプ1が多い
研究では、健常者953人の腸内細菌データを、generalized linear model(GLM)を用いて、COVID-19死亡率を予測する機械学習モデルを作成。その結果、Collinsella属が最も低い有意確率p値を示し、死亡率と強く負に相関することがわかった。
次に、教師なしクラスター解析ツールであるLIGERを用いて953人の腸内細菌データを解析したところ、5つの腸内細菌叢の型(エンテロタイプ)に分かれた。さらに、アジアの国ではエンテロタイプ1の割合が多く、ヨーロッパやアメリカではエンテロタイプ4、5の割合が多いことが判明。
平均死亡率は、エンテロタイプ1から5にいくにしたがって増えることがわかった。Collinsella属の平均相対比率は、エンテロタイプ2を除いてエンテロタイプ1から5にいくにしたがって減少していた。
Collinsella属産生のウルソデオキシコール酸、COVID-19感染を予防しARDS改善の可能性
Collinsella属は、ウルソデオキシコール酸を腸内で産生することが知られている。さらにウルソデオキシコール酸は、SARS-CoV-2がその感染受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)へ結合することを防ぐこと、炎症誘発性サイトカインを抑制すること、抗酸化・抗アポトーシス作用を有すること、急性呼吸症窮迫候群(ARDS)で肺胞液クリアランスを上昇させることが知られている。
以上より、腸管内のCollinsella属が産生するウルソデオキシコール酸は、COVID-19感染を予防し、COVID-19から生じるARDSを改善する可能性が示唆された。
肝疾患薬で認可済みのウルソデオキシコール酸、COVID-19薬として活用の可能性
今回の研究では国レベルの解析を行ったが、今後、個人レベルの解析を行うことで、各患者におけるCollinsella属のCOVID-19重症化への関与を解明することが期待される。加えて、重症化に関連する、もしくは、重症化を防ぐ新たな腸内細菌の同定も期待される。
また、便中のウルソデオキシコール酸の量とCOVID-19重症化との関連を個人レベルで調べることにより、ウルソデオキシコール酸のCOVID-19重症化への関与を解明することが期待される。ウルソデオキシコール酸がCOVID-19の感染と重症化を抑制することが明らかになれば、すでに肝疾患に対する薬として認可されているウルソデオキシコール酸がCOVID-19の感染と重症化を予防する薬剤として活用できる可能性がある、と研究グループは述べている。