動脈硬化を促進する血液凝固因子「FXa」のメカニズムは不明だった
東京医科歯科大学は12月28日、直接型FXa阻害薬リバーロキサバンがマクロファージにおけるオートファジーを活性化させることで炎症を抑制し、抗動脈硬化作用を発揮するという新たな作用機序を突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 循環制御内科学分野の前嶋康浩准教授、笹野哲郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC: Basic to Translational Science」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
FXaはトロンビン活性化を介して血液凝固を促進する作用を有するが、そのほかにprotease-activated receptor-2(PAR-2)という細胞膜受容体の活性化を介した細胞内シグナルの活性化作用も有している。この細胞内シグナルは平滑筋細胞の増殖・遊走、サイトカイン分泌の促進、NF-κBの活性化などをもたらし、動脈硬化の進展に重要な役割を果たすと考えられている。また、FXa阻害薬リバーロキサバンを動脈硬化症マウスモデルに投与するとアテローム性動脈硬化の進展が著明に抑制されることが、これまでの研究により示唆されている。
オートファジーは細胞内において自己を貪食するシステムだが、マクロファージにおけるオートファジーを抑制すると、自然免疫を担う分子複合体であるインフラマソームが活性化し、動脈硬化が促進されることも明らかにされている。しかし、動脈硬化発症のメカニズムにおいて、FXaとオートファジーやインフラマソームのシステムが連携しているのかについては不明のままだった。
そこで研究グループは今回、「FXaがPAR-2経路を介したオートファジーおよび自然免疫系を介した炎症反応を制御することで、アテローム性動脈硬化の進展に関わっているのではないか」という仮説を立て、検証実験を行った。その上で、リバーロキサバンがFXa-PAR-2経路を介する一連の機序に対してどのように作用するかについても検討した。
リバーロキサバン投与でFXaによるmTORのリン酸化が抑制され、オートファジー活性が回復
ApoE欠損マウスに高脂肪食負荷を行うと、大動脈における粥状動脈硬化巣が著明に形成されるが、血漿FXa活性も有意に上昇することが確認された。そこで、マウスにおいて効果的にFXa活性を抑制することのできるリバーロキサバン投与量120mg/kg/dayを同モデルに投与したところ、血漿FXa活性は有意に低下し、粥状動脈硬化巣も有意に縮小した。
次に、粥状動脈硬化巣に存在するマクロファージ内のオートファジー活性を検討した。マクロファージ内のオートファゴソーム数を評価したところ、リバーロキサバンを投与した高脂肪食負荷ApoE欠損マウス群では非投与群と比較して、オートファゴソーム数が有意に増加していた。また、培養マクロファージ(=RAW 264.7細胞)に粥状硬化誘導物質7-ketocholesterol(7KC)を添加すると、マクロファージにおけるオートファジーが活性化されたが、FXaを添加するとmTORのリン酸化が促進され、オートファジー活性が抑制された。さらに、リバーロキサバンを追加すると、FXaによるmTORのリン酸化は抑制され、オートファジー活性が回復した。
さらに、高脂肪食負荷ApoE欠損マウス内の粥状動脈硬化巣に発現しているインフラマソームの主要構成タンパク質NLRP3の発現量が、リバーロキサバン投与によって著明に減少することを見出した。そして、7KC処理した培養マクロファージにFXaを添加すると、NLRP3タンパク質量ならびにインフラマソームの活性化で放出されるIL-1β発現量が亢進し、ここにリバーロキサバンを投与すると、これらの発現は抑制されることも見出した。
FXaを介した動脈硬化促進作用はPAR-2を介した経路にとどまらない可能性
最後に、これまでのFXaとオートファジーやインフラマソームの活性化の関わりにPAR-2が関与しているのか否かを検討するため、PAR-2欠損マクロファージを用いた検討を実施。7KC処理を行うと、野生型マクロファージと同様にオートファジーの活性化が生じたものの、FXaを添加してもmTORのリン酸化、オートファジー活性の抑制、インフラマソーム活性の亢進は起こらなかった。PAR-2の関与については動物実験でも検討を行った。その結果、高脂肪食を負荷したApoEとPAR-2遺伝子の二重欠損マウスの大動脈における粥状動脈硬化巣の面積は高脂肪食負荷ApoE欠損マウスと比較して有意に低下していたが、リバーロキサバンを投与した高脂肪食負荷ApoE欠損マウスほどは低下しておらず、FXaを介した動脈硬化促進作用はPAR-2を介した経路にとどまらないことを示唆する結果となった。
PAR-2を介した動脈硬化促進作用は、オートファジー抑制作用が関与
また、高脂肪食を負荷したApoEとPAR-2遺伝子の二重欠損マウスにオートファジー阻害物質であるクロロキンを投与したところ、非投与の場合と比較して大動脈における粥状動脈硬化巣の面積が増大し、PAR-2を介した動脈硬化促進作用は、オートファジー抑制作用が関与していることが示される結果になったとしている。
動脈硬化症に対する分子標的薬の開発など、新規治療法開発進展への寄与に期待
今回の研究成果により、動脈硬化の進展がFXaにより促進されることを動脈硬化マウスモデルにリバーロキサバンを投与することで証明し、またFXaによる動脈硬化促進作用はPAR-2を介したmTORの活性化によるオートファジー活性の抑制がインフラマソームを活性化することにより惹起されていることが示された。
同研究成果は、リバーロキサバンには抗凝固作用だけでなく、抗動脈硬化作用がある可能性を示した大規模臨床試験ATLAS ACS TIMI 51試験、COMPASS試験、AFIRE試験の結果を分子生物学的見地から支持する知見であると考えられる。「また、オートファジーやインフラマソームといった細胞内メカニズムが動脈硬化症の発症や進展に深く関与していることを改めて浮き彫りにする結果となっており、今後、動脈硬化症に対する分子標的薬の開発など新規治療法の開発の進展に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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