金銀パラジウム合金は安定なのになぜ金属アレルギーが起こる?
東北大学は12月27日、パラジウムによるMHCの一過性の細胞内在化を発見し、それに伴う抗原ペプチドの置換により、アレルギー抗原が発現して病原性T細胞の活性化がおこり、金属アレルギーが発症することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大加齢医学研究所生体防御学分野の伊藤甲雄助教らの研究グループが、札幌医科大学大学院医学研究科病理学講座、東北大学大学院薬学研究科生活習慣病治療薬学分野との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Frontier in Immunology」に掲載されている。
画像はリリースより
日本における歯科金属アレルギーの調査(2006年~2016年)において、調査対象のおよそ半数が何らかの金属に対して反応を示すことが判明し、金属アレルギー予備軍であると考えられた。陽性率の高かった金属はニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、亜鉛(Zn)だった。パラジウムは金銀パラジウム合金として保険診療での歯科金属材料として、歯科治療で広く用いられている。銀歯の治療は、患者のQOL向上に大きく貢献している一方で、歯科金属アレルギーの増加が問題だった。歯科金属アレルギーは、パラジウムが一因であるとされてきたが、パラジウムは材料学的に安定な貴金属で、なぜ病気の原因となるのか不明だった。
金属アレルギーは、金属製品から汗や唾液などによって溶出した金属イオンが、皮膚や粘膜から浸透して体内の自己タンパク質と結合することが発症のきっかけと考えられている。歯科金属の場合、酸性の食物、口内に残った食べ物の分解、口腔細菌の代謝産物によって溶出しやすいと考えられる。溶け出した金属は、抗原提示に何らかの影響を与え、病原性T細胞を活性化させることで金属アレルギーを引き起こすと考えられていたが、金属によるアレルギー性T細胞の活性化のしくみは不明だった。そこで今回、研究グループは、パラジウムによるアレルギー抗原の発現機構について研究を行った。
Pd<樹状細胞でMHCクラスI取り込み<アレルギー抗原に置換<病原性T細胞活性化
今回、研究グループは、樹状細胞株にパラジウム溶液を添加する実験により研究を実施。その結果、パラジウム溶液添加によりMHCクラスIが一時的に樹状細胞内に取り込まれ、その後、再発現することを発見した。また、これに伴いMHCクラスI上の抗原ペプチドが置き換わってアレルギー抗原が発現していた。このアレルギー抗原提示により、病原性T細胞の活性化が起こって、金属アレルギーが発症する可能性が示唆された。なお、パラジウムによるMHCクラスI内在化を阻害すると、アレルギー性T細胞の活性化は低下した。
今回の研究では、これまでに明らかにされていなかったパラジウムアレルギーにおいて、樹状細胞がアレルギー抗原を提示するメカニズムが明らかになった。これまでは原因が不明だったため、歯科金属アレルギーの治療は原因金属の置換や抗炎症薬投与などの対症療法にとどまっている。研究グループは、「パラジウムによって引き起こされるMHCクラスIの内在化を抑制すること、抗原ペプチドの置換を防ぐこと、アレルギーの原因となる抗原ペプチドを特定することなどにより、金属アレルギーの新しい治療法が開発できると期待される」と、述べている。
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