海外では「灌流ミスマッチ」の場合、6時間を超えても機械的血栓回収療法対象
国立循環器病研究センターは12月23日、急性期脳梗塞を発症し造影剤を使用した灌流画像検査の結果から治療適応を判断して、6時間以内と、6~24時間にカテーテルを用いた脳血管内治療(機械的血栓回収療法)を受けた場合、両グループに臨床転帰の有意差がないことを発表した。この研究は、同センター脳血管内科/脳卒中集中治療科の井上学医長、脳血管内科の古賀政利部長、豊田一則副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Heart Association」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
脳を栄養する太い血管が血栓により詰まった場合、発症6時間以内にカテーテルを使用した血管内治療を行い、血栓を回収することで予後の改善が期待できる。造影剤を使用した灌流画像を、専用の解析ソフト(RAPIDソフトウエア、米国iSchemaView社)でペナンブラを判定することで、この6時間という時間制限を24時間まで拡大することが可能と言われている。
従来、脳梗塞における梗塞範囲は時間と共に拡大してしまうため、治療が早ければ早いほど効果が高いことが知られているが、なかには梗塞範囲があまり拡大しない場合もあることがわかってきている。これは灌流ミスマッチという状態で、判定する画像診断技術は灌流画像解析である。2018年から海外のガイドラインでは、灌流画像に基づいた灌流ミスマッチがあれば6時間を超えても機械的血栓回収療法の対象となることを掲載している。しかし、厳格なランダム比較試験による、6時間を超えた実臨床のデータがなく、また日本人での検討はされていなかった。
日本人対象に発症6時間以内、6~24時間以内の2群で比較
研究グループは、同センター脳血管部門に入院した症例データから、前向き登録研究であるNCVC Strokeレジストリを構築。また2017年に日本で初めて灌流画像解析ソフトRAPIDを導入した。そこで今回、同レジストリを用い、急性期脳梗塞を発症してから6時間以内と、6~24時間以内の2群における、RAPIDによる灌流画像解析の灌流ミスマッチ判定を踏まえた機械的血栓回収療法の有効性について、比較検討した。
NCVC Strokeレジストリに登録された2017年8月~2020年7月までの、発症から24時間以内に急性期脳梗塞に対して灌流画像撮像後に機械的血栓回収療法を受けた症例を後ろ向きに検討した。灌流画像解析にはRAPIDを使用した。全118例を6時間以内(87例)と、6~24時間(31例)の2群に分け、脳梗塞発症90日後の日常生活自立度を比較、解析した。
脳梗塞発症90日後の日常生活自立度に有意差なし
解析の結果、6時間以内の群と6~24時間の群で、日常生活自立度に有意差は見られなかった。つまり、6時間を超えても灌流ミスマッチがあることを確認して機械的血栓回収療法を行うことで良好な転帰が期待できることが日本人で確認された。
海外ではすでにランダム化比較研究で灌流ミスマッチが存在した場合の24時間までの機械的血栓回収療法の有効性がガイドラインに明記されている。日本でも、2021年の脳卒中ガイドラインに同研究を踏まえた記載はあるが、日本人における実臨床のデータを使用した報告は初めてだ。
「脳梗塞の治療は時間との勝負であるが、灌流ミスマッチがあれば治療可能時間が広がる可能性があるため、世界的に注目されている。国内における灌流ミスマッチを確認するための脳梗塞画像診断の普及とさらなる研究が期待される」と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース