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ヒトサイズに近い「バイオ人工肝臓」を作製し、動物への移植実験に成功-慶大

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2021年12月24日 AM10:45

人工的に作製した再生肝臓を使った移植治療の成功は世界初

慶應義塾大学は12月23日、動物の肝臓から主にコラーゲンなどの有効成分を残しバイオ臓器骨格を取り出す「脱細胞」という技術を応用し、世界で初めてヒトにも応用可能な大きさのバイオ人工肝臓を作製し、動物への移植を成功したと発表した。この研究は、同大医学部外科学教室(一般・消化器)の東尚伸氏(大学院医学研究科博士課程4年生)、八木洋専任講師、北川雄光教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Transplantation」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

現在、末期肝不全の患者に対する唯一の治療法は移植治療だが、ドナーの慢性的な不足が問題となっており、全世界で年間200万人以上が肝臓疾患で亡くなっている。iPS細胞の発明以来、近年の再生医療技術の発展は目覚ましく、末期肝不全などの臓器不全の治療に大きな期待が寄せられているが、ヒトに適応できる大きさの臓器再生を実現することは技術的にとても難しく、非常に高い障壁となっていた。

研究グループは今回、同再生医療技術の障壁となっていた「大きさのギャップ」を埋める技術開発のため、動物臓器から細胞を洗い流し、コラーゲンなどの有効成分だけを残す「脱細胞化」という方法に早くから着目。このコラーゲンを主体とした臓器骨格構造を元にして、生きたブタの肝臓細胞を充填し、ヒトの大きさに近いバイオ人工肝臓を作製する技術を確立した。その後実際にこのバイオ人工肝臓を、肝臓障害を誘導したブタに移植したところ、移植後1か月間で肝臓障害を治療することに成功した。人工的に作製した再生肝臓を使った移植治療の成功は、世界初となる。

脱細胞化処理後も細胞外マトリックス成分が残存、肝臓内部の血管・胆管の構造が保たれることを確認

研究ではまず、ブタの肝臓から細胞をすべて洗い流す「脱細胞化」処理のため、界面活性剤などを用いて効率的に有効成分である細胞外マトリックスなどを残し、肝臓の骨格構造を維持する手法を確立した。同手法を用いることで、新しく外部から細胞を注入して充填した際に、肝臓の骨格構造に細胞が生着しやすい環境を作り出すことが可能になった。実際に、脱細胞化処理を行った後で多くの細胞外マトリックス成分が残存し、肝臓内部の血管・胆管の構造が保たれていることが示された。

次に、ブタの肝臓細胞と血管内皮細胞を「脱細胞化肝臓骨格」内部に血管から、注入する圧力を測定しながらゆっくりと充填していくことで、移植肝臓としての機能を果たすために必要とされる十分な数の肝細胞と、移植後の血栓化を防ぐのに十分な血管内皮細胞を生着させることに成功。細胞が充填された後、肝臓としての機能を測定すると、アルブミンや尿素、凝固因子という肝臓で作られる物質が検出され、また他の肝臓機能に重要な遺伝子であるCYP関連遺伝子の発現が上昇していることが確認された。これらの検出結果は、体外でヒトの肝臓の大きさに近く、実際に肝臓機能を発現するバイオ人工肝臓の作製に成功したこと意味するという。

慢性肝不全のブタにバイオ人工肝臓移植後1か月で肝臓の治療効果を確認

このバイオ人工肝臓の治療効果を証明するため、慢性肝不全に陥ったブタへ、このバイオ人工肝臓の血管をつないで体内へ移植したところ、1か月間で肝臓の治療効果を示すことに成功した。移植されたブタは移植されなかったブタと比較して、特に移植後の早い日数で肝機能が改善していることが各種肝臓関連の血液検査データ(AST、ALT、ビリルビン、ALPなど)で確認された。また、移植手術後2週間目、1か月目に造影CTを撮影したところ、バイオ人工肝臓内部に血液の流入があることが確認された。

1か月後に、このバイオ人工肝臓を摘出して病理組織学的に調べたところ、充填した肝細胞や血管内皮細胞が内部でしっかりと生存しており、一部では新しく胆管の構造が作られ、胆汁も産生され始めていることが確認された。また、移植後1か月経過したこのバイオ人工肝臓内部で正常の肝臓で見られるような遺伝子発現を認めたとしている。

ヒトiPS細胞から作られた細胞を充填する研究も進行中

ヒトに応用可能な大きさのバイオ人工肝臓を世界で初めて移植成功に導いた今回の成果は、今後の臓器再生医療の実現化に向けて、大きな進歩であると言える。

「今回はブタの細胞を用いたが、同じ方法でヒトiPS細胞から作られた細胞を充填する研究も進めてられており、近い将来、肝不全を治療できるヒトバイオ人工肝臓の完成とともに、他の臓器への応用も大いに期待される」と、研究グループは述べている。

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