咀嚼機能とメタボに関する先行研究の結果を裏付けるために追跡調査
新潟大学は12月21日、無作為抽出した都市部一般住民を対象に、規格化された方法で測定した「咀嚼能率」とメタボリックシンドローム(以下、メタボ)罹患との関係を探る研究を実施し、他のリスク因子の影響を調整しても、男性においてのみ、「よく噛めない」ことがメタボのリスク因子となることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科包括歯科補綴学分野の小野高裕教授、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野の池邉一典教授、国立循環器病研究センター健診部の小久保喜弘特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Cardiovascular Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
咀嚼機能(噛む機能)が低下すると、さまざまな健康への悪影響を生じることが近年注目されている。研究グループは、2016年に咀嚼能率の低下した人はメタボの罹患率が高いと言う研究結果(横断解析)を発表していた。そして今回、メタボになっていなかった集団を追跡調査(縦断解析)することで、果たして本当に「よく噛めない」ことがメタボ罹患のリスクになり得るかという核心的な疑問の解明に挑んだ。
専用に開発されたグミゼリーを用いて咀嚼能率を測定
研究では、大阪府吹田市の地域住民から性年代階層別に無作為抽出された「吹田研究」の対象者のうち、2008年以降に健診受診した50~70歳代に歯科検診を実施した。調査期間内に2回受診した937人のうち、初回検査時にメタボでなかった599人(男性254人、女性345人)を分析対象にした。
咀嚼能率の測定は、専用に開発されたグミゼリーを30回噛んで増えた表面積を算出する方法を用い、下位4分の1を「低値群」、それ以外を「非低値群」とした。フォローアップ検査時の新規メタボならびにその構成要素(血圧高値、高血糖、脂質異常、肥満)の罹患について、年齢、喫煙、歯周病の影響を調整した解析を行い、「非低値群」に対する「低値群」のリスクを男女別に算出した。
男性で咀嚼能率が低い場合メタボの新規罹患率2.24倍高い
追跡期間は平均4.4年で、この間に88人が新たにメタボに罹患。男性の場合、「非低値群」に対する「低値群」のメタボ罹患率は2.24倍と統計学的にも有意だったが、女性の場合は1.14倍で統計学的に有意ではなかった。メタボの構成要素の新たな罹患率についても同様に男性においてのみ有意なリスク比が得られ、その値は血圧高値で3.12倍、高中性脂肪血症で2.82倍、高血糖で2.65倍だった。
すなわち、男性の場合、規格化された方法で測定した咀嚼能率低値群で、将来において血圧高値、高中性脂肪血症、高血糖ならびにメタボに罹患するリスクが、咀嚼能率非低値群と較べて2倍以上高いということが示され、2016年に発表した横断解析の結果を裏付けるものとなった。
閉経期以降のホルモンの変化、食習慣の違いなどが性差に影響と考察
研究グループはそのメカニズムとして、従来指摘されてきた咀嚼能率の低下による食物・栄養摂取への影響が介在していると考察。性差については、女性の場合、閉経期以降のホルモンの変化による影響が大きく、また食習慣の違いなどから、男性と比べて咀嚼能率低下の影響が出にくかったことが考えられるという。
同研究で用いた咀嚼能力測定法は、簡便に実施することができるため、研究結果を踏まえてメタボ予防のヘルスプロモーションが可能になる。「今後、咀嚼能率の低下と食習慣との関係を明らかにしていくことによって、より具体的な指導や改善プログラムが提案できるものと期待される」と、研究グループは述べている。
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