ASD児と定型発達児のCNTNAP2遺伝子のSNPと自閉的特性、知能の関連性を調査
金沢大学は12月15日、特定のアレル(対立遺伝子)を持つ定型発達児は、特定のアレルを持たない児に比べて自閉的特性が高く、知能指数が低いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大子どものこころの発達研究センターの塩田友果修士研究員(兼 大阪大学大学院連合小児発達学研究科博士課程)、廣澤徹准教授、横山茂教授、および同大医薬保健研究域医学系精神行動科学の菊知充教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ASDの診断基準は満たさないものの、他者の思考や感情を理解できず、コミュニケーションに困難を抱えやすい群は、診断閾下ASDと呼ばれる。幼少期から自閉的特性が認められ、定型発達群に比べて就学後にいじめや不適応行動、不登校などの問題を抱えやすいことが過去の研究で示されていたが、ASDと同様に、今のところ診断閾下ASDを検出する生物学的指標は存在しない。ASDの発症には遺伝要因が関与し、なかでもシナプス接着因子コンタクチン関連タンパク質様タンパク質2(contactin-associated protein-like 2;CNTNAP2)のSNPはASDとの関連が多く報告されている。しかし、これまでの研究はASD児や成人の定型発達者を対象としており、定型発達児を対象とした場合で、CNTNAP2遺伝子の特定のアレルの有無が診断閾下の自閉的特性および知能に関連しているか否かは不明だった。
そこで、今回研究グループは、ASD児および定型発達児を対象にCNTNAP2遺伝子のSNPと自閉的特性、知能の関連性を調べた。
CNTNAP2遺伝子のアレル頻度がASD児のみならず診断閾下ASDに関連している可能性
知的能力の発達に遅れのない3~8歳の日本人の子ども124人(うちASD児67人、定型発達児57人)を対象に、CNTNAP2遺伝子のアレル頻度(SNP rs2710102)、自閉的特性および知能指数の関連を解析した。その結果、ASD児は定型発達児に比べて、遺伝子型としてAA型が多いという統計学的な差がみられた。
さらに、定型発達児においても、A-アレルを持つ児(AA型およびAG型)は、持たない児(GG型)に比べて自閉的特性が強く、心理テストで評価された知能の指数が低いことを見出した。これらの結果は、CNTNAP2遺伝子のアレル頻度がASD児のみならず、診断閾下ASDに関連していることを示唆している。
今回の知見に幼児用脳磁計による脳機能画像を組み合わせ、早期発見につながる指標の確立を目指す
今回の研究で見られた特定のアレルと自閉的特性との関連は、診断閾下ASDを検出するための生物学的指標の一つとなる可能性がある。一方で、多様な症状を持つ診断閾下ASDを理解するためには、遺伝情報に加えて脳に起こっている変化を明らかにする必要がある。
「今回の研究で得られた知見に幼児用脳磁計による脳機能画像を組み合わせ、早期発見につながる指標の確立を目指している。診断閾下ASDを発達早期に検出し、支援していくことによって、将来の学校や社会における適応を改善していけると考えられる」と、研究グループは述べている。
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