HBV感染・肝炎進行リスク低下と関連が報告されているNTCP-S267F変異、その機能は?
広島大学は12月21日、塩基編集を用いて肝細胞にB型肝炎ウイルス(HBV)レセプター(NTCP)のS267F遺伝子変異を導入することに成功し、編集した遺伝子改変細胞のHBV感染に対する機能を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科消化器・代謝内科学の内田宅郎研究員らと、米国NIHのDr. Jake Liang研究室、同大医療イノベーション共同研究講座の茶山一彰教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy—Methods & Clinical Development」に掲載されている。
画像はリリースより
HBV感染者は、世界で約2億5000万人とされている。HBVは肝細胞表面に存在するSodium-dependent taurocholate co-transporting polypeptide (NTCP)をレセプターとして、肝細胞内に侵入し、核内に入ることで複製を開始する。現在では、インターフェロン製剤と核酸アナログ製剤を用いることで、B型肝炎はウイルス増殖を抑え、肝疾患の進展を防ぐことが可能になっているが、依然としてウイルスの排除は困難であり、新しい治療法の開発が望まれている。
NTCPタンパク質をコードするSLC10A遺伝子の267番目のアミノ酸におけるセリン(S)からフェニルアラニン(F)への変異(NTCP-S267F変異)は、HBVの感染および肝炎の進行リスクの低下と関連することが報告されているが、その機能は十分に評価されていなかった。
ゲノム編集技術は、生物が持つ遺伝子のDNA配列を狙い通りに書き換えることができる技術。従来のCRISPR/Cas9システムは遺伝子編集の手法として確立されたものだが、編集に先立って2本鎖DNAの切断(DSB)を必要としているため、編集時に遺伝子の欠失や挿入、転座などの予期せぬ編集が生じることが問題とされていた。新規ゲノム編集技術である塩基編集(Base editing)はDSBを誘導せずに標的遺伝子の塩基を変換することができ、遺伝子変異を比較的簡単、かつ安全に導入することができる。
NTCP-S267F変異を有する細胞株、ES/iPS細胞から分化させたHLCでHBV感染を阻害
今回の研究では、塩基編集により、NTCP-S267Fホモ接合型とヘテロ接合型の変異体を持つ細胞株を作製。野生型と比較した結果、NTCPの発現自体には変化が認められなかった。一方で、HBVレセプターとしての機能には変化が見られ、NTCP-S267Fホモ接合体へはHBVは感染せず、ヘテロ接合体は野生型と同等の感染効率を示した。
また、同様にES細胞・iPS細胞への塩基編集によりS267F変異体を作製し、肝細胞様細胞(HLC)に分化させたところ、遺伝子改変細胞においても、野生型と同様に高レベルの肝細胞分化マーカーを発現するHLCに分化した。
HLCにHBVを感染させると、ホモ接合型では感染は成立せず、ヘテロ接合型は野生型と同様にHBVに感染することを確認した。
HBV治療の新たな選択肢につながる可能性
今回の研究成果は、HBV治療の新たな選択肢につながる可能性があるという。さらに、塩基編集により作製された疾患モデルでは、遺伝子変異と病態形成のメカニズムをより生物学的に妥当なモデルで解析することが可能であり、B型肝炎のみならず、その他の疾患への応用も期待される、と研究グループは述べている。
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