医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > がん免疫療法の新規標的として、マクロファージ表面のSIRPβ1を同定-神戸大

がん免疫療法の新規標的として、マクロファージ表面のSIRPβ1を同定-神戸大

読了時間:約 3分8秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年12月22日 AM11:45

抗SIRPα抗体は単独でも有効か?各種がんモデルマウスで検討

神戸大学は12月21日、がん細胞を殺傷する能力を持つマクロファージに存在するSIRPαおよびSIRPβ1という膜タンパク質に特異的に結合する抗体を用いることで、マクロファージが活性化され、特定のがん細胞を効率よく排除できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の村田陽二准教授、坂本茉莉子大学院生、藤澤正人教授(現・神戸大学長)、的崎尚教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

近年、免疫細胞に作用するがん治療薬の開発が精力的に行われている。その一つとして、侵入してきた細菌や死細胞、さらにはがん細胞などを取り込んで除去する貪食能を持つマクロファージの機能を改変するがん免疫療法が、新たながん治療戦略として注目されている。

これまでに、的崎教授らの研究グループでは、マクロファージの細胞膜に存在するタンパク質SIRPαとその貪食標的となるがん細胞の細胞膜に存在するタンパク質CD47が結合すると、がん細胞を標的とする抗体医薬により誘導されるマクロファージのがん細胞に対する貪食活性が弱められる一方で、SIRPαに結合し、かつ、SIRPαとCD47の結合を阻害する作用を持つ抗体(抗SIRPα抗体)が、上記の活性を高め強力な抗腫瘍効果をもたらすことを見出していた。

このように、がん細胞を標的とする抗体との併用下において、抗SIRPα抗体の有用性が示されていたが、抗SIRPα抗体の単独使用の抗腫瘍効果については十分には明らかになっていなかった。そこで、研究グループは、抗SIRPα抗体が単剤使用でもがんの治療薬として利用可能であるか、さらにはそのメカニズムについて、複数のマウス由来がん細胞(膀胱がん、乳がん、肺がん、および骨肉腫細胞)を移植した腫瘍モデルマウスを用い検討を進めた。

単独でも有効であることを確認、マクロファージのがん細胞攻撃能を高めていた

その結果、抗SIRPα抗体の単独使用が、膀胱がんや乳がん細胞を移植した腫瘍モデルマウスにおいて、腫瘍の成長を著明に抑制することを発見した。また、この抗腫瘍効果にはマクロファージが中心的な役割を果たしていた。そして抗SIRPα抗体は単独でマクロファージの膀胱がんや乳がん細胞に対する殺細胞作用(細胞傷害および細胞貪食)を増強することができ、さらにこの殺細胞作用には抗SIRPα抗体に反応したマクロファージから分泌される炎症性サイトカインのTNFαが関わっていることもわかった。すなわち、抗SIRPα抗体がマクロファージのがん細胞を攻撃する能力を高め、膀胱がんや乳がんに対して抗腫瘍効果を発揮することが示された。

抗SIRPα抗体はSIRPβ1にも結合、SIRPβ1が殺細胞作用に重要だった

次に抗SIRPα抗体の膀胱がん細胞に対する抗腫瘍効果に、マクロファージの持つSIRPαが重要であるか否かについて確かめた。興味深いことに、SIRPαタンパク質を欠失したマクロファージにおいても、抗SIRPα抗体によりマクロファージの膀胱がん細胞に対する殺細胞作用が増強されることが観察され、抗SIRPα抗体がマクロファージに存在するSIRPα以外の分子にも結合することで抗腫瘍効果を発揮していると考えられた。さらに、以前の研究において、今回の研究で用いた抗SIRPα抗体はSIRPα以外に、(SIRPαと非常に類似したアミノ酸配列をとる)にも結合することを見出していたことから、SIRPβ1とこの抗体の結合がマクロファージのがん細胞に対する殺細胞作用に関わるのではないかと考えた。そこで、RNA干渉法によりSIRPβ1タンパク質の発現量を低下させたマクロファージを用いた実験を行ったところ、抗SIRPα抗体よるマクロファージの膀胱がん細胞に対する殺細胞作用の著明な低下が認められた。

これらのことから、今回の研究で用いた抗SIRPα抗体(SIRPαとSIRPβ1のいずれにも結合する抗SIRPα/β1抗体)は、少なくともマクロファージ上に存在するSIRPβ1に結合することでマクロファージの膀胱がんや乳がん細胞に対する攻撃作用(殺細胞作用)を高め、これらの腫瘍に対して抗腫瘍効果を発揮すると考えられた。また、SIRPβ1が新たながんの治療標的分子になり得る可能性が示された。

マクロファージ機能制御を利用した新たながん治療薬開発へ

今回の研究により、マクロファージのがん細胞に対する攻撃性を高め、腫瘍の成長を抑制する物質としてSIRPαとSIRPβ1に同時に作用する抗SIRPα/β1抗体の有効性が示されたとともに、マクロファージ上のSIRPβ1が新たながん治療の標的となる可能性が示された。「今後、抗SIRPα/β1抗体(または抗SIRPβ1抗体)およびがん治療標的としてのSIRPβ1の有効性と安全性、また抗体の詳細な作用メカニズムをさらに解析することで、マクロファージの機能制御を利用した新たながん治療薬の開発へとつなげたいと考えている」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大