手術パフォーマンスの向上と患者の合併症軽減におけるシミュレーション教育の効果は?
北海道大学は12月20日、英国キングズ・カレッジ・ロンドンを中心に行われた外科手術シミュレーショントレーニングの教育効果を評価し、その有用性を論文報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院腎泌尿器外科学教室の安部崇重准教授、篠原信雄教授らの研究グループを含む国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「European Urology」に掲載されている。
画像はリリースより
近年の医療技術の進歩はめざましく、例えば泌尿器科分野では、腹腔鏡手術手技やロボット手術の導入、今回の研究対象である細径尿管鏡を用いた結石治療などが挙げられる。手術教育方法に関しても、従来行われてきたオンザジョブトレーニングに加えて、手術場外でのシミュレーショントレーニングが普及した。また、腹腔鏡手術においては、ドライボックスでの運針縫合トレーニング、ヴァーチャルリアリティーシミュレーターの利用、生体ブタや篤志献体を用いた手術トレーニングが行われている。
しかし、その教育効果に関しては評価が不十分で、特にシミュレーショントレーニングにより手術パフォーマンスの向上と患者の合併症軽減が得られるかは、高いエビデンスレベルの研究結果が存在していなかった。
シミュレーション/オンザジョブトレーニング群で、OSATSスコアや合併症などを評価
研究には、日本、英国、米国、中国、オーストリア、カナダ、中国、ドイツ、ギリシャ、スイス、トルコの修練医が参加。対象とした術式である尿管鏡手術は、主に尿路結石手術で必要になる手術技術で、世界中で広く施行されている術式だ。この術式の執刀経験数10例以下、かつシミュレーショントレーニングの経験のない医師がリクルートされ、従来のオンザジョブトレーニング群とシミュレーショントレーニング介入群にランダムに振り分けられた。
シミュレーショントレーニング介入群では、尿管鏡手術を独立した術者として施行する上で必要なさまざまな知識に関する座学を受講後、シミュレーショントレーニングが行われた。北海道大学では、クリニカルシミュレーションセンターにおいて、まずドライボックスを用いた尿管鏡トレーニングを実施。その後、実際の手術室に場を移して、バスケットを用いた模擬尿路結石の抽出など、さらに実践的トレーニングが実施されている。
トレーニング終了後、その後に執刀した25症例、もしくは18か月の観察期間において執刀した症例について、術中のパフォーマンス、および周術期の合併症に関する情報が前向きに集積された。術中のパフォーマンスは指導医が、手術技術評価方法の代表的方法の一つであるObjective Structured Assessment of Technical Skill(OSATS)に従って評価し、そのスコアが集積された。OSATSスコアは、1)組織の愛護的操作、2)時間と動作、3)手術機器の扱い方、4)手術機器に関する知識、5)助手の使い方、6)手術の流れと予測、7)該当術式に関する知識、をそれぞれ5段階評価する評価方法で、最低点が5点、最高点が35点。
シミュレーション群でOSATSスコアは有意に高く、全合併症・尿管損傷ともに有意に少ない
シミュレーショントレーニング介入群32人、従来のオンザジョブトレーニング群33人に対して、18か月の観察期間において、1,140件の手術でOSATSスコアと周術期データが前向きに集積された。結果、シミュレーショントレーニング介入群の医師において、OSATSスコアは有意に高く、全合併症・尿管損傷ともに有意に少ないことが観察された。
同研究は、初学者に対して手術シミュレーショントレーニングを行うことで、実際の手術においてもパフォーマンスの向上、手術安全の向上が得られることを高いエビデンスレベルで証明した世界初の研究成果だという。
他の術式における手術教育方法での利用されることに期待
今後の働き方改革に伴う若手医師の手術参加機会の減少を考慮すると、外科教育におけるシミュレーショントレーニングの有用性を、実際の臨床成績との相関を含めて証明した意義は極めて高いと考えられる。また、この結果は、他の術式における手術教育方法に対しても大きな影響を与える研究結果である。「他の術式においてもシミュレーショントレーニングがますます普及していくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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