エコチル調査のデータを用いて、妊婦の世帯年収と生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患との関連を評価
山梨大学は12月16日、世帯年収が平均的な群の妊婦から生まれた子どもと比べて、それよりも低い群の妊婦から生まれた子どもでは、3歳時における気管支喘息およびアトピー性皮膚炎の罹患と関連があること、世帯年収が平均的な群より高い群の妊婦から生まれた子どもは、3歳時において食物アレルギーの発症と関連があることが判明したと発表した。この研究は、同大エコチル調査甲信ユニットセンターの研究グループによるもの。研究成果は、「International Archives of Allergy and Immunology」に掲載されている。
画像はリリースより
妊娠中の社会経済的状況と子どものアレルギー疾患発症の関連については、いくつかの研究が報告されていたが、必ずしも結果が一致していなかった。そこで研究グループは今回、より精度の高い解析結果を得るため、エコチル調査に参加している約7万組の親子の質問票調査から得られた大規模データを用いて、妊婦の世帯年収と生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー)との関連を評価した。
7万組以上の親子を対象に、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの有無を確認
研究では、エコチル調査に参加している10万4,062人の妊婦の妊娠中期のデータおよび生まれた子どもの3歳時のデータのうち、調査への同意撤回、死産、流産、妊婦の世帯年収および生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患のデータに欠測がある人を除いた7万2,180組分のデータを対象として解析した。
妊婦の世帯年収は妊娠中期の質問票の回答から、「200万円未満」「200万円以上400万円未満」「400万円以上600万円未満」「600万円以上」で区分し、日本の平均世帯年収が入る「400万円以上600万円未満」を基準とした。生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患は、3歳時の質問票で気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの医師による診断の有無を確認した。
世帯年収200万円未満の妊婦から生まれた子どもはアトピー性皮膚炎、600万円以上は食物アレルギーと関連
これらのデータを使用し、妊婦の世帯年収と生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患の関連について、多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析した。一般的に小児のアレルギー疾患の関連因子として考えられているものには、妊娠前の母親のBMI、妊娠時の母親の年齢、妊婦またはパートナーのアレルギー疾患の既往、受動喫煙、分娩様式、早産、生まれた子どものきょうだいの有無、出生体重、生まれた子どもの性別、母乳栄養による育児、生まれた子どもの1歳時の保育施設通園、生まれた子どものRSウイルス感染症罹患歴(気管支喘息のみ)、生まれた子どもの1歳時のアトピー性皮膚炎(食物アレルギーのみ)があり、それらを考慮した解析を行った。
その結果、世帯年収が平均群(400万円以上600万円未満)の妊婦と比べて、200万円未満の群の妊婦から生まれた子どもは、3歳時における気管支喘息及びアトピー性皮膚炎の罹患と関連があることが明らかになった。一方、世帯年収が600万円以上の群の妊婦から生まれた子どもは、平均群と比較して3歳時において食物アレルギーの発症と関連があることが判明した。
今後は増加した理由や背景を詳しく分析し、予防に向けた保健指導などにつなげていくことが重要
今回の研究の強みは、約7万組の妊婦及び生まれた子どもの出生コホートのデータを用いたことにあると言える。これにより、十分な数の対象者を解析することが可能となり、より信頼性の高い結果が得られた。日本でも所得格差が広がっているが、同研究成果により、妊婦の世帯収入と生まれた子どものアレルギー疾患の発症に関連があることが明らかとなった。今後はその理由や背景についてより詳しく分析し、増加傾向にある子どものアレルギー疾患の予防に向けた保健指導などにつなげていくことが重要と考えられる。
「本研究では、3歳時に医師によって診断されたアレルギー疾患の有無を質問票で確認したが、質問票の記載内容は保護者による申告であり、医療機関に照会をしていないことなどが研究の限界点だ」と、研究グループは述べている。
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