EGFR遺伝子変異肺がん、阻害剤無効後の治療が課題
近畿大学は12月17日、EGFR遺伝子変異肺がんの新たな治療法につながるHER3遺伝子の発現異常を発見したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(腫瘍内科部門)の米阪仁雄講師を中心とする研究グループが、第一三共株式会社と共同で行ったもの。研究成果は、「Clinical Cancer Research, a journal of the American Association for Cancer Research」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
EGFR遺伝子変異は、日本人の多くの肺がん症例で見られる。EGFR遺伝子変異肺がんの治療薬としてはEGFR阻害剤が広く使用されているが、多くの場合において、治療開始およそ20か月後には、がんが治療への抵抗性を獲得して増大する傾向がみられる。EGFR阻害剤が無効となった後の治療は難しく、より有効な治療法の確立が必要とされている。
48症例の組織解析で、治療無効後にHER3の発現増加を確認
今回、研究グループは、EGFR遺伝子変異肺がんの48症例について、EGFR阻害剤治療開始前の腫瘍組織と同治療が無効となった後の腫瘍組織を用いて研究を実施。それぞれの組織について、HER3発現の状態を免疫組織染色法で調べ、網羅的な遺伝子解析を次世代シーケンサーで行った。
その結果、HER3発現は、治療開始前と比較して治療が無効となった後に増加していた。特に、EGFR阻害剤を休まずに継続投与した症例で、HER3の発現が増加していた。また、遺伝子発現パターンの解析から、EGFR阻害剤による細胞内のPI3K-AKT生存シグナルの阻害が、HER3発現増加の要因であると考えられた。
「パトリツマブ デルクステカン」+「オシメルチニブ」併用が有望
次に、前臨床試験において、EGFR遺伝子変異肺がん細胞に対する、抗HER3抗体薬物複合体「パトリツマブ デルクステカン」とEGFR阻害剤「オシメルチニブ」による治療実験を行った。その結果、無治療に比べると、パトリツマブ デルクステカン単剤およびオシメルチニブ単剤による治療はそれぞれ一定のがん細胞増殖抑制効果を示すが、両薬剤を併用することでより強力に抑制することがわかった。この併用による効果は、オシメルチニブがHER3の発現を増加させ、HER3を治療標的とするパトリツマブ デルクステカンの抗腫瘍効果を高めているためと研究グループは考察している。
今回の研究成果は、EGFR遺伝子変異肺がんにおいて、抗HER3抗体薬物複合体とEGFR阻害剤の併用治療が有望である可能性を示す画期的なもの。現在、第一三共は、EGFR遺伝子変異肺がん症例を対象に、パトリツマブ デルクステカンとオシメルチニブの併用療法に関して、日本も参加している国際共同治験を実施している。
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