医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > CKD、尿中ナトリウム・カリウム排泄量が腎機能低下と関連-国循ほか

CKD、尿中ナトリウム・カリウム排泄量が腎機能低下と関連-国循ほか

読了時間:約 4分34秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年12月20日 AM10:35

尿中ナトリウム・カリウム排泄量を7回の24時間蓄尿で評価、腎機能予後との関連を検討

(国循)は12月16日、尿中ナトリウムの高い排泄量(一般には塩分摂取量が多いことを反映)と、尿中カリウムの低い排泄量(一般にはカリウム摂取量が少ないことを反映)が、それぞれ腎機能低下と関連することを示したと発表した。この研究は、 予防医学・疫学情報部の尾形宗士郎上級研究員( 医学部 腎臓内科学 客員講師)、国循予防医学・疫学情報部 部長の西村邦宏( 医学部 腎臓内科学 客員教授)、大幸砂田橋クリニックの前田憲志院長、 医療科学部 臨床工学科の中井滋教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」にオンライン公開されている。

慢性腎臓病患者において透析や早期死亡を防ぐために、ナトリウム摂取制限が重要であると言われてきた。また、慢性腎臓病患者は腎機能低下によるカリウム排泄量の不足から血液内のカリウム濃度が高くなり過ぎやすく、重篤な不整脈の原因となるため、カリウム摂取量を適切に制限することが重要とされている。しかし近年では、慢性腎臓病患者へのカリウム摂取量の強い制限は腎機能低下と関連しているとする報告があり、慢性腎臓病患者のカリウム摂取量について、世界的に議論されている。加えて、多くの先行研究の結果をまとめて再解析するメタアナリシス研究では、ナトリウム摂取量とカリウム摂取量と腎機能の関連性は研究ごとにさまざまであり、強固なエビデンスは示されていない。

研究グループは、先行研究の結果が不一致である理由として、・カリウム摂取量の評価が、大きな測定誤差を含む方法に基づいているからではないかと推察した。多くの先行研究では、質問紙調査票による食事習慣の把握や、随時尿(1日のある1回の尿による評価)、あるいは1回の24時間蓄尿(1日の全部の尿による評価)の結果に基づく尿中ナトリウム・カリウム排泄量により、・カリウムの摂取量を評価している。しかし、・カリウム摂取量をその尿中排泄量から正確に評価するには、随時尿や24時間蓄尿の1回の測定結果からだけの評価では不十分であり、随時尿ではなく24時間蓄尿の結果を、さらに複数回平均して評価することが重要であることが、最近の先行研究で示された(摂取量と24時間蓄尿の1回での不一致割合はナトリウムで51%, カリウムで34%; 3回平均での不一致割合はナトリウムで25%、カリウムで19%; 7回平均での不一致割合はナトリウムで8%、カリウムで13%)。そこで研究グループは今回、慢性腎臓病患者を対象に、過去7回の24時間蓄尿の診療データに着目し、7回の蓄尿測定値を平均して求めた尿中ナトリウム排泄量と、7回の蓄尿測定値を平均して求めた尿中カリウム排泄量と、腎機能低下速度との関連を観察研究で検討した。

ナトリウム排泄量中-高群&カリウム排泄量低群は腎機能低下が著しい

今回の研究は、大幸砂田橋クリニックに通院歴のある慢性腎臓病患者の匿名化された過去の診療データを用いた後ろ向き観察研究。慢性腎臓病患者のうち、2年以内で7回以上の24時間蓄尿のデータがあり、ベースラインの腎機能が推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/min/1.73m2未満だった240人の慢性腎臓病患者を解析対象とした。

同研究のアウトカムは、腎機能低下速度(1年間のeGFR %変化量)とし、腎機能低下速度を評価するためにベースラインの蓄尿実施日から4年の間に繰り返し測定されたデータを使用した(中央値2.9年)。同研究のeGFRは、日本での慢性腎臓病の臨床および研究で広く使用されている推算式によって、血清クレアチニンと年齢と性別から算出した。また、リスク要因は、7回平均24時間蓄尿ナトリウム・カリウム排泄量とし、統計解析には線形混合効果モデルを使用した。

対象患者の年齢の中央値(IQR)は72.0(63.0–79.0)歳だった。7回平均24時間蓄尿ナトリウム排泄量が1標準偏差上昇(44.4mEq/d)ごとに、eGFRの年間%変化量(95%信頼区間)は-3.26(-5.85 to -0.60)%/yearで、7回平均24時間蓄尿カリウム排泄量が1標準偏差上昇(13.2mEq/d)ごとに、eGFRの年間%変化量(95%信頼区間)は5.20(2.34 to 8.14)%/yearだった。7回平均24時間蓄尿のナトリウム/カリウム比が1標準偏差上昇(1.59)ごとに、eGFRの年間%変化量(95%信頼区間)は-5.20(-7.64 to -2.69)%/yearだった。また、ナトリウム・カリウム排泄量を、3分位に基づき低(下側33パーセンタイル)・中(真ん中33パーセンタイル)・高(上側33パーセンタイル)群に分け、対象患者を下記4群に分けた。A: ナトリウム排泄量低群&カリウム排泄量中-高群(= Reference群)、B: ナトリウム排泄量低群&カリウム排泄量低群、C: ナトリウム排泄量中-高群&カリウム排泄量低群、D: ナトリウム排泄量中-高群&カリウム排泄量中-高群。

Aのナトリウム排泄量低群&カリウム排泄量中-高群と比較して、Cのナトリウム排泄量中-高群&カリウム排泄量低群のeGFRの年間%変化量(95%信頼区間)は-16.27(-23.57 to -8.27)%/yearと、より腎機能の低下が著しい結果となった。

慢性腎臓病患者におけるナトリウム・カリウム摂取量については、さらなる研究が必要

今回の研究結果は、先行研究で示されたナトリウムの尿中高排泄量とカリウムの尿中低排泄量が腎機能低下と関連していることを補強する結果となった。特に、ナトリウム・カリウム排泄量の評価を、7回の24時間蓄尿のナトリウム・カリウム排泄量の平均値により、正確に測定した(測定誤差を小さくした)という点から、先行研究と比べて、より確からしい結果になったと考えられる。一方で、実際にナトリウム・カリウムの摂取量を変えることがその後の腎機能低下速度を遅くするか否かを結論付けるには、さらなる研究が必要だ。特に、カリウム摂取量については慎重に検討する必要がある。実際に、先行研究でも同研究でも、低すぎるカリウム摂取量と腎機能低下は関連していたが、慢性腎臓病患者において、カリウム摂取量を多くすることは高カリウム血症を生じる可能性があり、これは重篤な不整脈につながる可能性があるからだ。さらに、同研究のカリウム排泄量の中群(真ん中33パーセンタイル)と高群(上側33パーセンタイル)は、先行研究(慢性腎臓病患者対象の研究と、非慢性腎臓病患者対象の研究)におけるカリウム排泄量が高い群と比較して、カリウム排泄量が少ない値であり(同研究では、カリウム摂取量の高群でも一定のカリウム摂取制限下にあると考えられる)、結果の解釈に注意が必要だ。

慢性腎臓病患者の腎機能低下予防に効果的な新しい食事療法の開発につながる可能性

今回の研究成果により、慢性腎臓病患者において塩分摂取量を制限するとともに、カリウム摂取量を再考することで、さらに効果的な腎機能低下予防につながる可能性が期待される。

「ただし、本研究は観察研究のため、ナトリウム・カリウム摂取量を変えることがその後の腎機能低下を予防するか否かを決定づけるには、さらなる研究が必要となり、複数の先行研究結果を慎重に考えたうえで、日常診療に応用していく必要がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大