■臨床薬理学会で報告
単一の治験実施計画のもと複数の地域で同時期に治験を実施し、複数の規制当局に同時申請を目指すICHガイドライン「E17」(国際共同治験の計画およびデザインに関する一般原則)の定着に時間がかかっている現状が、11日に仙台市で行われた日本臨床薬理学会学術総会で報告された。2017年に合意され、18年6月には日本でE17の内容を反映したガイドラインが策定されたが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)とE17を実装した治験計画で合意に至ったのは1試験のみにとどまっている。
E17ガイドラインは、日本が主導して策定されたガイドラインで、世界各地域での承認申請で国際共同治験の受け入れ可能性を高めるために、国際的に調和された国際共同治験の計画やデザインの一般原則を示したもの。
国際共同治験は、日本で実施される治験全体の約7割を占めるが、各地域の規制当局によって求めるデータの要件が異なり、受け入れ体制に温度差があった。企業が地域差や民族差を考慮した上で各地域の症例数配分を柔軟にし、属性別集団間における治療効果の一貫性を評価できるよう目指している。
ただ、18年6月に厚生労働省からE17の内容を反映したガイドラインが策定されたが、企業の医薬品開発戦略に大きな変化が起きていない。谷河賞彦氏(バイエル薬品研究開発本部オンコロジー開発部)は、日本製薬工業協会によって実施されたE17に基づく複数の地域を統合して解析する「プールドリージョン」の動向に関する調査結果を紹介した。
日本で実施された972件の国際共同治験のうち、企業が地域併合戦略の導入を検討したのは42件あった。「合理的な日本人症例数を設定できる」「より効率的に開発ができる」との理由でE17を導入する検討を行ったものの、多くが「地域を併合する根拠が不十分」とし、社内で採用したのは8件にとどまり、PMDAとの合意に至ったのは1件に過ぎなかった。
谷河氏は、「合理的な日本人症例数の設定や効率的な医薬品開発に期待しているが、妥当性を示すエビデンス構築が困難で当局の受け入れ基準も不明瞭となっている」と分析した。企業側でも「リソースや社内の理解不足などの課題もある」と浸透に時間がかかっている現状を説明した。
PMDAの宇山佳明氏は、「E17のコンセプトは治験における日本人症例を減らすことではなく、民族的な要因をうまく考慮して市販後に起きるサプライズをなくし、安全対策へとつなげていくか」と指摘。
「多くの民族や国を一つの治験に入れて薬剤がどのような動きをするかを知り、承認することによって、われわれが自信を得て市販後に起きる未知で重篤な副作用を減らし、安全対策へとつながっていく」と述べ、効率的な医薬品開発の実現だけがE17の目的ではないと強調した。
そのためには、「第III相試験の実施直前に複数の地域を併合できるかを聞かれても難しい議論になる。開発の早期段階から第III相試験で複数の地域を統合して解析することを念頭に置き、開発過程で得られた情報を蓄積し、どう第III相試験でどうプールしていくかを議論していく経験の集積が大事」と述べた。