外出週1回未満の「閉じこもり」に関連する口腔機能は?
東北大学は12月13日、2万6,579人の高齢者の6年間の追跡調査の結果、歯が20本未満であることや咀嚼困難があることは将来の閉じこもりと関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の小坂健教授、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の相田潤教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Oral Diseases」に掲載されている。
画像はリリースより
外出頻度が週1回未満である状態と定義されている「閉じこもり」は、社会的孤立や身体活動量の低下など健康への悪影響を引き起こし、その結果要介護リスクの増加や、死亡率の増加、認知機能の低下などにつながる可能性がある。近年の新型コロナウイルス感染症の流行とそれに伴う感染予防政策により、高齢者が閉じこもりになる危険性が高まっている。閉じこもりと口腔状態に関する先行研究からは、それらの関連に双方向の関連がある可能性が示唆されていた。また、閉じこもりと関連する口腔機能の種類についてはあまりわかっていなかった。
研究グループは今回、6年間の追跡調査を行い、歯の本数と3つの口腔機能(咀嚼困難、むせの経験、口腔乾燥症)が将来の閉じこもりと関連するのかについて検討。さらに、その反対方向の関連性、つまりベースライン時点で閉じこもりであることと6年後の口腔状態についても検討を行った。
歯の本数、咀嚼困難、むせの経験、口腔乾燥症と閉じこもりについて双方向的に検討
研究の対象は、日本全国の13市町村が参加した日本老年学的評価研究(JAGES)のパネルデータを用いた、65歳以上の要介護状態でない高齢者。研究における双方向性の性質から、各分析において、ベースライン時点で各アウトカムが良好な参加者を対象とした。例えば、ベースライン時の口腔状態とフォローアップ時の閉じこもりを調べる解析では、2010年のベースライン時点で閉じこもりでない人を対象にした。逆に、ベースライン時点で閉じこもりであったこととフォローアップ時の4つの口腔状態の悪化との関連を調べる解析では、4つのデータセットを作成し、ベースライン時点でそれぞれ、歯が20本以上であった人、咀嚼困難がなかった人、むせの経験がなかった人、口腔乾燥症がなかった人というように参加者を選択した。
統計解析は、閉じこもりをアウトカムとした解析においては、ベースライン時点で4つの口腔状態を別々のモデルで予測因子として使用した。その後、4つの口腔状態を同じモデルに投入した。4つの口腔状態をアウトカムとした分析では、ベースライン時点の閉じこもりを予測因子として使用。解析では、年齢、性別、教育歴、併存疾患、うつ状態の影響を取り除いた。まず分析対象者の特徴を調べるため、記述的な解析を行い、その後ポアソン回帰分析を用いて各アウトカムの存在率比を算出した。
「歯の本数20本未満」、20本以上と比べて6年後の閉じこもりが1.42倍多い
解析対象は2万6,579人、ベースライン時点の平均年齢は72.4歳(SD=5.04歳)。口腔状態と閉じこもりとの関係については、1,009人(3.8%)がフォローアップ時に閉じこもりだった。ポアソン回帰分析の結果、「歯が20本未満」であることは、「歯が20本以上」と比べ、追跡調査時に閉じこもりである存在率比が高い結果となった(PR=1.42;95%CI=1.22-1.65)。また「咀嚼困難」も「咀嚼困難がない」と比較して、閉じこもりである存在率比が高い結果だった(PR=1.28;95%CI=1.11-1.59)。一方、むせの経験や口腔乾燥症とフォローアップ時の閉じこもりについては有意な関連は見られなかった(むせの経験のPR=0.99;95%CI=0.83-1.18、口腔乾燥症のPR=0.94;95%CI=0.80-1.10)。
逆の関連性について、ベースライン時点で閉じこもりであることは、フォローアップ時に咀嚼困難を予測したが(PR=1.17;95%CI=1.05-1.30)、他の3つの口腔状態に関しては予測しなかった(歯が20本未満PR=1.00;95%CI=0.95–1.04、むせの経験PR=1.06;95%CI=0.92-1.22、口腔乾燥症PR=1.02;95%CI=0.88-1.18)。
閉じこもる<頭頚部の筋肉が衰え<咀嚼機能が低下という発生経路も示唆
研究の結果、歯が20本未満であることや咀嚼困難があることは将来の閉じこもりと関連することがわかった。むせの経験や口腔乾燥症は将来の閉じこもりとは関連がなかった。反対に、ベースライン時点の閉じこもりはフォローアップ時の咀嚼困難の発生と関連したが、他の3つの口腔状態の悪化を予測しなかった。
これらの結果から、口腔の健康状態から将来の閉じこもりまでの経路として、口腔状態が悪くなることによる栄養状態の悪化や、審美面における問題によって説明できる可能性がある。反対に、閉じこもりから咀嚼困難発生までの経路としては、閉じこもることによって頭頚部の筋肉が衰え、咀嚼機能が低下するという経路が考えられる。
咀嚼機能や歯の本数はオーラルフレイルの重要な測定項目
オーラルフレイル(口腔機能の低下)は日本における重要な課題であり、閉じこもりの危険因子である。オーラルフレイル判定のための有効な測定項目に関してはいまだに議論があるが、本研究から、咀嚼機能や歯の本数は閉じこもりにつながるオーラルフレイルの重要な測定項目であり、高齢期において、歯の本数を維持することは閉じこもりになる危険性を軽減させると考えられる。「閉じこもり予防のために口腔機能を維持すること、また、社会参加をうながす地域づくり型の介入が、口腔の健康にも寄与すると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース