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歯周病菌が血管の創傷治癒を遅延させる仕組みを発見-東北大

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2021年12月10日 AM10:55

血管内皮細胞による血管修復に歯周病が与える影響は?

東北大学は12月9日、歯周病の代表的な原因菌であるPorphyromonas gingivalis()が、血管内皮細胞産生のplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)を分解することで、血管内皮細胞の創傷治癒が遅くなることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科口腔分子制御学分野の多田浩之講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Innate Immunity」に掲載されている。


画像はリリースより

歯周病は細菌による感染症であり、複数の歯周病原細菌が関わっている。中でも、P. gingivalisは歯周病に最も深く関わることからキーストーン病原体として注目されている。P. gingivalisはプロテアーゼのジンジパインを分泌して、ヒトが持つ免疫に関わるさまざまなタンパク質を壊し、殺菌されないように免疫に抵抗している。また、ジンジパインはアルツハイマー型認知症の悪化に関わることも明らかにされている。

歯周病にかかると、歯を支える歯周組織は慢性的な炎症に陥り、歯周ポケットの中で血管が破れて出血する。P. gingivalisは増殖するために鉄分を必要とする細菌で、ジンジパインにより赤血球を壊しヘモグロビンからヘム鉄を摂取する。歯周ポケットの出血は、P. gingivalisが増殖するために好適な環境となる。血管の内側は血管内皮細胞で裏打ちされており、出血が起こると血管内皮細胞は破れた穴を埋めるように移動して血管を修復する。血管内皮細胞が移動するには、細胞自身が出すタンパク質plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)が必要になる。

そこで今回、歯周病において、血管内皮細胞による血管の修復がどのような影響を受けるかについて、P.gingivalisをヒト血管内皮細胞に感染させる実験を実施した。

歯周病菌<ジンジパイン分泌<血管内皮細胞が産生のPAI-1分解<創傷治癒遅延

その結果、P. gingivalisを感染させると、血管内皮細胞から産生されるPAI-1の量が著しく減少。しかし、人為的にジンジパインを欠損させたP. gingivalisを感染させると、血管内皮細胞のPAI-1の量は減少しなかった。さらに、PAI-1タンパク質をP. gingivalisから精製したジンジパインで処理すると、PAI-1は複数の断片に分解されることから、P. gingivalisが分泌するジンジパインはPAI-1を分解していることがわかった。

次に、血管内皮細胞の創傷治癒におけるP. gingivalisの影響を調べるため、血管内皮細胞の単層培養に創傷をつくり、血管内皮細胞の移動により創傷が治る過程を観察した。血管内皮細胞の創傷は、細胞の移動により約24時間後にほぼ閉鎖される。しかし、血管内皮細胞をPAI-1阻害薬やPAI-1受容体であるLRP1拮抗薬で処理すると、24時間を経過しても創傷はほとんど閉鎖されなくなった。

そこで、血管内皮細胞にP. gingivalisを感染させると、血管内皮細胞の創傷治癒は遅くなった。それに対して、加熱してジンジパインを失活させたP. gingivalisやジンジパイン欠損菌では、創傷治癒の速度は通常の血管内皮細胞と同じだった。血管内皮細胞に精製ジンジパインを添加すると創傷治癒は遅くなったことから、ジンジパインによるPAI-1の分解により血管内皮細胞の創傷治癒が妨げられることが示唆された。

歯周病菌が壊れた血管から体内へ侵入で、アルツハイマー型認知症など悪化の可能性も

今回の研究から、P. gingivalisはPAI-1を分解して血管内皮細胞の創傷治癒を妨げることが明らかになった。歯周病では、血管の修復が遅れると歯周ポケットの出血が持続する。その結果、P. gingivalisは増殖し、歯周病は悪化していくことが示唆される。

また、P. gingivalisが壊れた血管から体内に侵入することで、アルツハイマー型認知症や心血管疾患など血管の異常が関わる全身の病気を悪化させる可能性も考えられる、と研究グループは述べている。

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