膀胱平滑筋に対する各種プロスタノイドの作用を検討
東邦大学は12月7日、複数のプロスタノイドが膀胱平滑筋のプロスタノイドTP受容体を刺激することで膀胱の収縮活動を強力に増強することを明らかにし、その増強反応に複数のCa2+チャネルの活性化が関与することを見出したと発表した。この研究は、同大薬学部薬理学教室の田中芳夫教授、小原圭将講師、吉岡健人助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Life Sciences」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
過活動膀胱(OAB)などの排尿障害は、加齢とともに罹患率が増加することが知られており、超高齢社会に突入した日本では、これらの排尿障害を抱える患者が増加している。OABの薬物治療には、自律神経系に作用する薬物が用いられているが、副作用や有効性の観点から、新たな治療薬の登場が望まれている。
プロスタノイドはOABの原因となる可能性がこれまで指摘されており、プロスタノイドの標的となる受容体の拮抗薬は、新たなOAB治療薬となる可能性を秘めている。ただし、膀胱平滑筋に対する各種プロスタノイドの作用やそれらの作用メカニズムに関する情報は不足していた。そこで研究グループは、モルモットから摘出した膀胱平滑筋の収縮活動に対する各種プロスタノイドの作用を検討し、それらの作用機序を薬理学的・生化学的に検討した。
複数のプロスタノイドが膀胱平滑筋のTP受容体を刺激
研究グループは、マグヌス法を用いてモルモットから摘出した膀胱平滑筋の基礎張力および自発性収縮活動に対するU46619(トロンボキサン(TX)A2安定誘導体)および5つのプロスタノイドの増強効果を検討した。その結果、検討した薬物のうち、U46619およびプロスタグランジン(PG)E2、PGF2α、PGA2が膀胱平滑筋の基礎張力および自発性収縮活動を増強することを見出した。
これらの作用点を推定するため、RT-qPCR法を用いて、膀胱に発現する9種類のプロスタノイド受容体(TP、FP、EP1、EP2、EP3、EP4、DP1、DP2、IP)のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量を比較したところ、プロスタノイドTP受容体のmRNAの発現量が最も多いことを見出した。また、免疫染色によりTP受容体が膀胱平滑筋に存在することを確認した。
TP受容体刺激は複数のCa2+チャネル活性化を介して暴行の収縮を亢進
U46619、PGE2、PGF2α、PGA2が膀胱平滑筋のTP受容体を刺激することを確認するため、これらの増強反応に対する選択的TP受容体拮抗薬(SQ 29,548)の効果を検討したところ、U46619による増強反応は完全に消失し、PGE2、PGF2α、PGA2の増強反応は部分的に抑制された。TP受容体の活性化によりもたらされる膀胱平滑筋の収縮活動の増加のメカニズムを、細胞内Ca2+流入経路に着目して検討したところ、U46619による増強反応は細胞外液からCa2+を除くことで完全に消失した。また、U46619による基礎張力の上昇反応および自発性収縮活動の頻度の増加反応は、電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)抑制薬であるベラパミルによって完全に抑制されたが、ベラパミルは、U46619により増強された自発性収縮活動の振幅には影響を与えなかった。ベラパミルの存在下で残存した自発的収縮活動は、受容体作動性Ca2+チャネル(ROCC)の抑制薬であるLOE-908では抑制されなかったが、ROCCおよびストア作動性Ca2+チャネル(SOCC)の抑制薬であるSKF-96365によって完全に抑制された。
さらに、膀胱平滑筋におけるSOCCの本体を推定するために、SOCCの本体と考えられているOraiチャネル(Orai1、Orai2、Orai3)とOraiチャネルの活性化を引き起こす小胞体Ca2+ センサータンパク質であるSTIM(stromal interaction molecule)(STIM1、STIM2)のmRNAの発現量をRT-qPCR法により比較したところ、Orai1とSTIM2のmRNAの発現量が最も多く、次いでOrai3のmRNAの発現量が多いことが明らかとなった。
VDCC/SOCCはOAB治療の新規ターゲットとなる可能性
今回の結果は、TXA2、PGE2、PGF2α、PGA2などのプロスタノイドがTP受容体を刺激することにより膀胱平滑筋の収縮異常をもたらす可能性を提示するとともに、TP受容体の刺激が、VDCCおよびSOCC(Orai1/Orai3)を介した細胞内Ca2+流入を促進することで、膀胱平滑筋の基礎張力の上昇と自発性収縮活動の増加をもたらすことを示している。以上から、TP受容体およびTP受容体の刺激により活性化されるCa2+チャネル(VDCC/SOCC)は、膀胱平滑筋の収縮異常によりもたらされるOABなどの排尿障害の治療の新たなターゲットとなる可能性が高い、と研究グループは考えている。
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・東邦大学 プレスリリース