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ヒト人工血小板、iPS細胞からの作製効率を飛躍的に改善-千葉大ほか

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2021年12月07日 AM11:45

不死化巨核球を樹立できる確率は5%以下と低かった

千葉大学は12月3日、ヒトiPS細胞から血小板を産生するための従来法よりも効率的な手法の開発に取り組んだ結果、細胞の増殖を妨げるCDKN1Aとp53という2つの遺伝子の働きを抑えることで、高効率に血小板産生細胞を得られることがわかったと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の高山直也准教授、江藤浩之教授、北海道大学の曽根正光助教、京都大学iPS細胞研究所の中村壮特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

研究グループは以前、ヒト多能性幹細胞を、血小板を生み出す細胞である巨核球へと分化させ、さらに増殖を促進するMYC、BMI1、BCLXLという3種類の遺伝子(これらをまとめて以降MBXとする)を強力に発現させることで、その巨核球を不死化することに成功していた。これにより血小板の元となる不死化巨核球を大量に増殖させ、輸血に必要とされる膨大な血小板を作製することが理論上可能となった。しかし、多能性幹細胞から不死化巨核球を樹立できる確率は5%以下と低く、ほとんどの試行においてMBXを発現させても巨核球が増殖を2か月以内に停止してしまうという問題があった。また増殖能力の低い巨核球は、1つの巨核球あたりから産生される血小板数も低いということがわかっていた。そこで研究グループは、巨核球が不死化する確率が高くなるよう手法の改善を目指した。

CDKN1Aとp53の発現抑制を追加で増殖能が100億倍以上に改善

まず、さまざまなヒトiPS細胞株を元に、従来法で得られた巨核球をその増殖能力の程度によって高/中/低増殖の3カテゴリーに分類。そのうえでRNA-seq法により遺伝子発現解析を行ったところ、高増殖巨核球に比べ、低または中増殖巨核球では細胞の増殖を抑える働きがあることが知られるCDKN1AおよびCDKN2A遺伝子の発現が高い傾向にあることが明らかになった。

そこで、従来法で作製された低/中増殖巨核球において、short hairpin RNA(shRNA)によりこれらの遺伝子を抑制することで、鈍化した増殖能を活性化することができるかどうかを試みた。その結果、CDKN1A遺伝子に対するshRNAを導入した場合と、CDKN1Aの発現を促進するp53遺伝子に対するshRNAを導入した場合に、最終的に100倍以上の細胞数が得られ、増殖が著しく改善された。一方、CDKN2Aに対するshRNAにはそのような増殖促進効果はなかった。

次に、新たにiPS細胞から巨核球を分化する過程でこれらのshRNAを導入し、巨核球の不死化効率が改善するかどうかを調べた。その結果、MBXに加えてCDKN1Aとp53に対するshRNAを同時に導入することで、増殖期間が4倍程度、増殖率が1010以上と増殖能力が飛躍的に改善した。

血小板産生能力も確認

最後に、shRNAを用いて得られた増殖能の高い巨核球が血小板を生産することができるのか、その生産効率と生産された血小板の機能を解析した。その結果、従来法で得た中増殖巨核球にshRNAを導入した巨核球株と、iPS細胞からの分化の過程でshRNAを用いる新規法で樹立した巨核球は、いずれもshRNAを用いないで得た巨核球よりも血小板産生能力が数倍〜数十倍高いことが判明。その能力はこれまでに作製した中で最も血小板産生能力の高い巨核球株に比類するものだった。

新規法で得た巨核球株は、同じiPS細胞由来の従来法で得た巨核球に比べDMS(血小板産生が旺盛な巨核球に見られる特殊な細胞内膜構造)を発達させている様子が観察され、高い血小板産生能力を裏付けていた。さらに、血小板の機能を調べるためPMA刺激を行ったところ、shRNAを用いた巨核球株由来の血小板が20%を超える高い割合でPAC1抗体染色陽性となり、明瞭な応答性を示したことから機能性を有することが示された。

血小板不応症の治療等につながると期待

今回の研究により、CDKN1Aとp53という2つの遺伝子を抑制することにより高確率で増殖能力の高い巨核球を樹立できることがわかった。研究グループは、「この成果により、これまでネックとなっていた個別のiPS細胞からの不死化巨核球の作製が効率化され、例えば血小板不応症患者の体内で抗体反応が起きにくい血小板など、患者の疾患に合わせた機能を持つテイラーメイド血小板の作製に応用されることが期待される」と、述べている。

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