「ルナルナ」利用者約4,000人対象のランダム化比較試験
国立成育医療研究センターは12月1日、女性の健康情報サービス「ルナルナ」を用いて約4,000人の利用者を対象としたランダム化比較試験をスマートフォンアプリ(以下、アプリ)内で実施し、アプリを用いた不妊治療に関する情報提供が利用者の知識向上に寄与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同センターの梅澤明弘研究所長、同再生医療センターの横溝陵研究員ら、株式会社エムティーアイの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Digital Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
日本の夫婦の約3組に1組(35%)は、自分たちは不妊ではないかと心配したことがあり、約6組に1組(18.2%)は不妊症の検査、または治療を受けたことがある。また、2019年にルナルナで実施した調査では、不妊治療における悩み事として「不妊治療に関する正しい知識・情報の収集」「治療をステップアップすべきかの判断」「いつまで治療を続けるべきかの判断」をあげる患者も多く見受けられた。
このように患者が情報の正しさに悩むこと、治療について自己決定が難しいことといった不妊治療の問題を解決すべく、ビッグデータの活用により妊娠・出産に関する知見をサービスに反映させてきた実績を持つ「ルナルナ」と、日本の成育医療の中心的な存在である国立成育医療研究センター研究所の梅澤明弘所長らのグループは、不妊治療に関する共同研究を2020年から実施。今回はその共同研究の第一弾として、アプリを使った情報提供が利用者のリテラシー向上につながるかを検証し、不妊治療に関する情報配信の手段としてアプリが有用かを検討した。
情報提供後に実施した不妊治療テストの点数が有意に上昇
今回の研究では、「ルナルナ」の妊娠希望ステージに登録している利用者を対象に、アプリを通して不妊治療の情報を提供するグループ(介入群)と、女性のカラダの知識など不妊治療以外の情報を提供するグループ(対照群)に分けて、検証。その結果、介入群では、対照群と比較して情報提供後に実施した不妊治療に関するテストの点数が有意に上昇。アプリを通じて不妊治療に関する情報提供をすることが、知識の向上に寄与することが明らかになった。
また、不妊治療の状況や生活背景に紐づいた、リテラシーの現状に関する知見を集積。同研究を最後まで完了した人は、途中で離脱した人と比べて、「年齢が高い」「もともとのリテラシーが高い」「パートナーとの同居率が高い」ことが明らかになり、不妊治療に関するモチベーションが高かったことが示唆された。
「人工授精」治療内容は情報提供前で正答率約36%、体外受精と混同が多い
続いて、「加齢に伴う妊娠率の低下」は、情報提供前の正答率が約88%と認知度が高いことが明らかになった。
「人工授精」の治療内容については、情報提供前の正答率は約36%。誤って理解している割合が6割以上と高く、特に体外受精の治療内容と混同している人が多いことが明らかになった。
一方、不妊治療に関する情報提供した人では、約51%まで正答率が上昇することが明らかになった。「人工授精」の妊娠率について、実際の妊娠率(3〜10%)に対して、約51%の方が妊娠率を20〜30%と高く認識していることが明らかになった。
参加者60%以上が主にインターネットで不妊治療の情報収集
最後に、60%以上の参加者は、普段インターネットをベースに不妊治療に関する情報収集を行っていることが明らかになった。
情報の信頼性について約60%の人が不安を抱えている一方、情報収集の際に気を付けていることについては「特に気にしていない」という回答割合が約40%と最も多いことが判明。これらの現状を踏まえながら今後の情報提供方法について検討する必要があることが考えられる、としている。
スマホでの適切な情報配信を検討、不妊に悩むカップルのサポートへ
今回の調査では、患者が不妊治療を受けるにあたって医師の目線で理解しておいたほうが良いと考えられる内容を情報提供内容に盛り込んだという。不妊治療を受けるとなった場合を仮定して、アプリを通じて情報提供することでどの程度理解できるのか、ということが明らかになった。不妊治療を実施する際に説明を担当する医療関係者にとっても、この状況を理解することで説明方法を工夫することができ、診療の質向上に寄与すると考えられる。
情報の信頼性について考える際、情報源について注意を払っている可能性が想定されたが、今回の研究においては、情報源は留意せずに情報を入手していることが明らかになった。このような日本人の情報入手に関する現状を踏まえた上で、適切な情報提供手段について検討する必要があると考えられる。
また、今回の調査では、不妊治療に関する日本の公的保険制度についても過半数の方に理解されていることが明らかになった。現在、日本で保険適用範囲の拡大が検討されているが、今回の調査結果は、エビデンスに基づく制度設計を実現する上で重要な知見となると考えられる。
今回の研究で得られた知見をもとに、研究グループは今後、スマートフォンを活用した適切な情報配信方法を検討し、不妊に悩むカップルのサポートを行っていきたいとしている。また、情報の質に関する課題が明らかになったことで、公的機関が正確性を担保した情報提供を行うなどの公衆衛生戦略により、カップルの幸福に貢献し、長期的には国民の健康にも良い影響をもたらすことを期待している、と述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース