■厚労省が新制度骨子案
厚生労働省は3日、緊急時の新たな薬事承認制度の骨子案を厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会に示した。他に承認済みの治療薬などの代替手段がない場合、治験データの一部がなくても有効性が推定されれば承認するとした一方、承認後のデータ収集と有効性の再確認、安全性を検討する審議会を高頻度に開くことなどを条件づけた。厚労省は、次回会合で取りまとめ案を示す考え。
骨子案では、発動要件として、現行の特例承認制度と同様に、「国民の生命・健康に重大な影響を与える恐れがある疾病の蔓延その他の健康被害の拡大を防止するために緊急的に使用することが必要な医薬品等で、他に代替手段がないこと」と定義した。
感染症のアウトブレイク、ケミカル・バイオテロなどを緊急時として想定し、厚労大臣が緊急時かどうかを判断する。
運用基準を見ると、迅速性を優先し、治験データ等の一部がなくても「効能・効果を持つと推定される」医薬品等で、ベネフィットがリスクを上回る場合は承認するとした。
推定の基準として、治療薬を例に、入手可能なデータから一定の蓋然性をもって有効性があることが推定されるケースなどとした。ただ、安全性については「確認」が必要としている。
承認の条件・期限では、承認後も検証データを収集させ、一定期間内に改めて承認申請させることで有効性等を確認する。有効性等が確認できない場合は、承認を取り消すとした。
改めて承認申請する場合、提出を猶予された試験の成績に加え、使用成績調査等のリアルワールドデータでエビデンスを提示することも求める。
新制度が想定する緊急時は概ね2年程度とし、期限は「短期間」とした。
市販後の安全対策として、副作用等報告制度やリスク管理計画を活用する。また、緊急時の承認であることを踏まえ、通常よりも高頻度に審議会を実施すること、集積事例を統計的に解析した上で因果関係を評価するなど、新型コロナウイルスワクチン対応を参考とした安全対策を実施することとした。
医薬品副作用被害救済制度では、特例承認された品目も対象としていることから、新制度で承認された医薬品等による健康被害も同様に救済制度の対象とする。
その他として、新制度での各種特例を明記。申請時の添付資料として臨床試験成績、製造方法、規格、試験方法に関する資料のみ提出を求め、薬理作用などその他の資料は提出を猶予することなどを記載した。
これら骨子案の内容について、委員からは概ね肯定する意見が相次いだが、荒井保明委員(国立がん研究センター理事長特任補佐)は、安全性の確認について「医療の世界に100%という言葉はなく、確認という言葉は怖く感じる。国民に誤ったメッセージを与えてしまう懸念がある」と指摘。
これに対して、医薬・生活衛生局の吉田易範医薬品審査管理課長は「最低限の安全性は必要ということで、著しい有害性がないかどうかを確認するという意味だ。誤解のないよう新制度ではこの意味を情報発信したい」と応じた。