組織修復の遅延に関与するTLTの形成を促進する細胞や分子は不明だった
京都大学は11月30日、加齢に伴い増加する老化関連T細胞(SAT細胞)と老化関連B細胞(ABCs)という2種類のリンパ球が腎臓の三次リンパ組織内部で相互作用し、その形成を促進することを発見。さらに、その相互作用分子としてCD153-CD30経路を同定し、これを遮断することで三次リンパ組織が誘導されなくなり腎臓の組織修復が促進され、予後が改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学講座、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)主任研究者の柳田素子教授と同講座・京都大学大学院医学研究科MIC/TMKプロジェクト(米国Mayo Clinic留学中)の佐藤有紀特定助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Investigation」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
現在、血液透析患者数は年々増加し、医療的にも社会的にも大きな問題になっている。高齢者の腎臓病は若年者と比べて治りにくいことがわかっているが、そのメカニズムは不明な点が多く、予後を改善させる薬剤も同定されていない。研究グループは以前よりこの原因解明に取り組み、高齢マウスおよび高齢者の腎臓病では腎臓内に「三次リンパ組織(Tertiary Lymphoid Tissue: TLT)と呼ばれるリンパ節と類似した組織が誘導され、この組織が炎症を遷延させることで腎臓の組織修復が遅延することを見出していた。しかし、TLTの形成に関与する細胞群や分子は不明であり、これらを標的とした治療薬の開発は困難だった。
SAT細胞とABCsをつなぐ「CD153-CD30経路」が高齢マウス障害腎臓で限局して発現
研究グループは今回、高齢個体において高率にTLTが誘導されることから、加齢に伴い誘導される老化関連T細胞(SAT細胞:Senescence-associated T cells)および老化関連B細胞(ABCs: Age-associated B cells)がTLT形成に寄与するという仮説を立て、障害後徐々にSAT細胞とABCsが高齢マウスの腎臓に蓄積すること、そして、これらがTLT内部に限局して蓄積することを見出した。
次に、TLTを誘導した腎臓の免疫細胞のシングルセル解析を行い、SAT細胞とABCsを含む免疫細胞の多様性を明らかにするとともに、それらの細胞群の遺伝子発現プロファイルを明らかにし、SAT細胞がABCsを活性化するのに必要な遺伝子群を高発現していることも見出した。これに加え、SAT細胞とABCsが腎障害後時空間的に連動して腎臓に蓄積することから、両者の相互作用がTLT形成に重要な役割を果たしていると考え、両細胞間でのレセプターリガンド解析を行い、SAT細胞とABCsをつなぐ新規シグナル分子として、CD153-CD30経路を同定した。さらに、これらの分子が高齢マウス障害腎臓では、それぞれ主にSAT細胞とABCsに限局して発現していることも見出した。
CD153-CD30経路はB細胞の活性化に必須だが、ABCsの基本的な性質への寄与は小さい
次に、CD153-CD30シグナル経路のTLT形成における機能を検討することを目的に高齢CD153欠損マウスと高齢CD30欠損マウスに腎障害を誘導したところ、両マウスともにSAT細胞とABCsが野生型マウスと比較して有意に減少してTLT形成が損なわれ、それとともに炎症・線維化そして腎機能の改善が認められた。さらに、CD153-CD30経路のSAT細胞とABCsへの直接的な影響を検討する目的で、CD153欠損マウスおよびCD30欠損マウスの障害腎臓からSAT細胞とABCsを単離し、野生型マウスのそれと遺伝子発現を比較検討した。すると、CD153およびCD30欠損マウスにおけるABCsを特徴づける遺伝子発現は野生型と比較して有意な差が認められなかったのに対し、CD30欠損マウスのSAT細胞はABCsを誘導するのに必要なIL21やIL10など、B細胞の活性化に関わる遺伝子発現が著明に低下していた。
これらの結果から、CD153-CD30経路はSAT細胞がABCを含めたB細胞を活性化する機能を獲得するのに必須なシグナル経路である一方、ABCsの基本的な性質への寄与は小さく、CD153欠損マウスおよびCD30欠損マウスの障害腎臓におけるABCsの減少は、両マウスにおけるABC誘導に必須なSAT細胞の喪失による二次的な影響と考えられた。
SAT細胞が、病気の進行を促すCD4 T細胞に類似したTph-like cellとTh10 cellに分類されることを発見
最後にヒトでの解析を行い、ヒト腎臓においてもTLT内部にCD153を発現する細胞が存在することを見出した。近年幅広いヒト自己免疫疾患において、炎症が起きている臓器でB細胞を活性化させ、病気の進行を促すCD4 T細胞として、T peripheral helper cells(Tph cells)とIL10産生T細胞(Th10 cells)という2種類の細胞が同定されている。
研究グループは、高齢マウス障害腎臓のシングルセル解析から、SAT細胞はこのTph cellsに類似したTph-like cellとTh10 cellという2種類の細胞に分類されることを新たに見出した。この知見に基づき、ヒト自己免疫疾患の公共データベースを用いた解析を行い、ヒト関節リウマチの障害滑膜におけるTphおよびABCにおいてもCD153-CD30がそれぞれ発現していることを見出した。
SAT細胞とABCsは自己免疫疾患などでも確認済み、幅広い疾患の治療法開発への貢献に期待
今回の研究で得られた知見は高齢者腎臓病の新規治療薬開発を大きく促進するものであり、今後の創薬への応用が期待される。
研究グループは、「SAT細胞とABCsは高齢個体のみならず、免疫老化が加速している自己免疫疾患や移植の拒絶病変、肥満など幅広い疾患で認められることから、今回の知見が幅広い疾患の治療法開発に貢献することが期待できる。また、TLTが腎臓の新規障害マーカーとなり得る可能性も最近報告しており、今回の知見が疾患の早期診断や予後予測などに有用なバイオマーカーの開発を促進することも期待される」と、述べている。