潰瘍性大腸炎の内視鏡画像に基づくDNUCを開発し、精度を前向きに検証
東京医科歯科大学は11月29日、潰瘍性大腸炎の内視鏡画像に基づくコンピューター画像支援システム(DNUC; deep neural network system based on endoscopic images of ulcerative colitis)を開発したと発表した。この研究は、同大消化器内科の竹中健人助教と同大高等研究院の渡辺守特別栄誉教授と同大病院光学医療診療部の大塚和朗教授のグループと、ソニー株式会社との共同研究によるもの。研究成果は、「Lancet Gastroenterology and Hepatology」に掲載されている。
画像はリリースより
潰瘍性大腸炎は慢性の炎症性腸疾患で、症状の寛解と増悪を繰り返し、日常生活の質に強く影響する。近年の治療の進歩で症状を抑えるだけでなく、炎症そのものをコントロールすることが可能となった。しかし、炎症をコントロールするためには症状寛解だけでなく「粘膜治癒」を達成することが重要であり、下部消化管内視鏡を行い「内視鏡的な寛解」および「組織学的な寛解」を評価することが必須となる。
しかし、その評価を行うには病気に対する知識や経験が必要で、医師の主観に基づくため相違が生じることが問題だった。さらに、組織学的な寛解評価のためには内視鏡検査で粘膜生検を採取する必要があり、採取に伴うコストや合併症が避けられなかった。
人工知能(AI)技術の進歩により、医療の領域でもさまざまなコンピューター支援機器の開発が進んでいる。今回の研究では、深層学習というAI技術を用いることで、潰瘍性大腸炎の内視鏡画像に基づくコンピューター画像支援システム(DNUC)を開発し、その精度を前向きに検証することを目的とした。
内視鏡的な寛解に対する精度は90.1%、組織学的な寛解に対する精度は92.9%
まず、2014年1月~2018年3月までに東京医科歯科大学病院で潰瘍性大腸炎患者に施行した下部消化管内視鏡の画像と粘膜生検を見直し、AI学習に適切と思われるデータ(2,012人、4万758画像、6,885粘膜生検)を収集。その後、全てのデータに対してUCEISスコアとGeboesスコアを専門医が点数付けした。同研究では、UCEISスコア0点を「内視鏡的な寛解」、Geboesスコア3.0以下を「組織学的な寛解」と定義。このデータセットを学習データとして用い、ソニーの協力を得てDNUCを開発した。
入力された画像をもとに、DNUCはUCEISスコアと「内視鏡的な寛解」と「組織学的な寛解」を出力。開発したDNUCの精度は2018年4月~2019年4月までに東京医科歯科大学病院に通院中の875人の患者を対象に前向きに検証。その結果、DNUCの「内視鏡的な寛解」に対する精度は90.1%、「組織学的な寛解」に対する精度は92.9%だったとしている。
上記875人の患者を対象に、下部消化管内視鏡後の臨床経過(予後)を1年検討した。すると、DNUCが「内視鏡的な寛解」および「組織学的な寛解」と評価した患者では、有意に「再燃」「ステロイド使用」「入院」「手術」の発生率が低いことが判明。また、DNUCの予後予測能をハザード比で算出すると、全ての予後について、潰瘍性大腸炎専門医と同等だったという。
病理結果の予測感度は97.9%、特異度は94.6%
次に、開発したAIシステムを内視鏡動画へ適応した。動画からリアルタイムに適切な静止画を選択するアルゴリズムについてはソニーの協力のもと開発した。その結果、内視鏡装置とDNUCが搭載されたパソコンをつなぐことで、「リアルタイムな組織学的評価」と「一定の内視鏡スコア算出」が可能となった。さらに、2019年4月~2020年3月までに東京医科歯科大学病院と大学関連4病院で多施設前向き研究を行い、精度を検証。「リアルタイムな組織学的評価」については、臨床的寛解の潰瘍性大腸炎患者180人を対象に、生検組織の病理結果とDNUCの結果を比較した。
その結果、DNUCは81.0%の生検組織について病理結果を予測可能で、感度と特異度はそれぞれ97.9%と94.6%だった。「一定の内視鏡スコア算出」については、潰瘍性大腸炎患者590人を対象に、潰瘍性大腸炎専門医とDNUCがそれぞれ算出したUCEISスコアを比較。スコア算出に関して、専門家とDNUCの間の相関は0.927と非常に高い一致を示したとしている。
DNUCの臨床応用を目指し、実用可能性の検討を進める予定
DNUCは、「内視鏡的な寛解」を高い精度で評価するだけでなく、内視鏡スコアの算出も潰瘍性大腸炎専門医と同様に行うことが可能だった。内視鏡評価は主観的で医師間の相違もあるため、同システムが示した精度は潰瘍性大腸炎内視鏡評価に関する過去の論文結果と比較して、十分に高い結果だったという。また、DNUCは同じ動画からは常に同じ内視鏡評価を出力するため、「いつでも」「どこでも」「だれでも」同様の内視鏡評価が可能となる。そのため、将来的にはDNUCが病気の重症度や治療効果を評価する基準になると考えられる。
さらに、DNUCは内視鏡動画からリアルタイムに組織学的評価を行うことも可能だ。これまで組織評価のためには粘膜生検の採取が必要だったが、DNUCを用いることで内視鏡施行中の組織評価が可能となり、必要な粘膜生検の回数を減らすことができる可能性があり、生検に関連するコストとリスクをなくすことができるという。
研究グループは「DNUCが臨床現場で必要となることを強く確信し、臨床応用できることを目指している。引き続き臨床現場での実現可能性について検討を進め、将来的には世界中で、潰瘍性大腸炎に対する内視鏡評価の方法や基準が変わる可能性を期待している」と、述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース