小児患者は長期にわたって在宅医療の対応が必要になり、入退院を繰り返す例が多く、入院中の情報や退院後の対応、入院までの情報提供などについて病院薬剤部と薬局薬剤師の薬薬連携を含む情報共有体制を構築する必要性が指摘されている。厚生労働省は今年度の予算で「成育医療分野における薬物療法等にかかる連携体制構築推進事業」を実施しており、10都県の薬剤師会を採択。埼玉県薬はその採択事業者の一つとなっている。
埼玉県薬は医療機関と薬局間の連携体制の構築に向け、多職種連携ツールとしてエンブレースが開発した完全非公開型医療介護専用SNS「メディカルケアステーション」(MCS)を活用する。MCSを導入して薬局薬剤師や病院薬剤師、医師が患者の入院中や退院後、在宅現場での様子、入院前の情報を多職種で共有し、薬局薬剤師は小児在宅訪問を実施。その後、MCS導入後に連携の取りやすさや、患児の保護者から在宅訪問に対する満足度などをアンケート調査から聴取し、効果の検証を行う予定だ。医師や病院薬剤師だけではなく、訪問看護師や訪問医師の情報も共有できるようにする。
モデル地区としては、小児在宅医療で連携実績のある埼玉医大病院と周辺薬局、訪問看護がMCSに参加。来年度以降はMCSに参加する医療機関を増やし、県内の他地域に横展開していく。小児科領域だけではなく他の疾患領域でも在宅医療で多職種連携の仕組みを広げる構想もある。
小児在宅医療に対応できる薬剤師の育成にも着手する。2022年2月には県内の薬剤師向けに研修会をウェブ形式で開催する予定。小児在宅医療を実施する医師、臨床薬学部門と小児医薬品評価学を専門とする薬剤師、小児在宅医療に関わる薬局薬剤師が講演する。
埼玉県薬は2012年から薬の管理ができない高齢者をサポートする目的で、在宅医療に関するステップアップ講習会を開催。在宅薬学管理の基礎から応用、無菌調剤の手技研修、麻薬の副反応や看取りなどの緩和ケアの普及とスキルアップに努めてきたが、今年度からは小児在宅医療の研修を行い、在宅医療の手技についても広げていく。
一方で課題も山積している。医療的ケア児の在宅医療は母親が24時間寄り添ってケアを行うなど医療体制が不足している。畑中典子副会長は、「薬剤師よりも患児の母親の方が知識を持っているのが現状。子供の薬学的管理は確立されていない。薬剤師が小児在宅医療での知識や経験を身に付けることで、頑張っているお母さんの負担を少しでも減らすことができる」と保護者支援が薬剤師にとって重要な役割と説明する。
在宅医療に対する調剤報酬上の評価が低いことも課題だ。小児に対する薬物療法は約7割が適応外使用で、小児用医薬品がないために薬局で成人用のカプセル剤を粉砕して粉剤にしたりするのに多くの手間がかかる。池田里江子常務理事は「1日がかりで調剤をしないといけないこともある。在宅患者調剤加算の処方箋受付1回につき15点は低すぎるのではないか」と訴える。
抗精神病薬など処方箋にはない保険適応外の薬物療法が突然開始される事例も多くあり、「処方箋にはない薬物療法が始まった場合に薬剤師が情報共有できる仕組みも必要」との考えを示す。