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薬剤難治性側頭葉てんかん、前方側頭葉切除術の最適な脳切除範囲を同定-慈恵大ほか

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2021年12月01日 PM12:15

根治術の前方側頭葉切除術、50~80%で発作消失が期待できる一方、術後の記憶障害が課題

東京慈恵会医科大学は11月26日、薬剤難治性側頭葉てんかんに対する前方側頭葉切除術の切除範囲と術後記憶障害および発作消失率の関係を調査し、世界で初めて記憶障害を起こさずに発作消失を得られる最適な外科切除範囲を明らかにしたと発表した。この研究は、同大精神医学講座の曽根大地講師(University College London研究員)、英国University College London 神経学研究所のMatthias Koepp教授、John Duncan教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Neurology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

てんかんは人口の約1%弱が罹患し、小児から高齢者までが発症しうる頻度の高い神経疾患。約70%の例で抗てんかん薬により発作消失が達成できるが、30%の薬剤難治例では突然意識を消失する等のてんかん発作が持続し、事故や怪我を引き起こしたり、社会的な不利益を被ったりする等の問題が生じる。

側頭葉てんかんは成人で最も有病率の高いタイプのてんかんで、しばしば薬剤難治性を呈する一方、手術により発作を起こしている領域を切除することが発作消失に有用であることがわかっていた。前方側頭葉切除術は最も確立された根治術であり、50~80%の確率で発作消失が期待できる一方、記憶に重要な海馬等の構造を切除するため、術後の記憶障害が問題となっていた。

今回の研究では、手術後の画像と臨床データを用いて、術後の発作消失率を高く維持しつつ、認知機能を温存できる最適な切除範囲を同定することを目的とした。

2004~2016年に術後・脳MRI検査を受けた薬剤難治性側頭葉てんかん患者142人対象に解析

今回の研究対象は、てんかん外科手術に関する現在も継続中の前向きコホート研究から、前方側頭葉切除術を施行され、2004~2016年の間に術後の脳MRI検査を受けた142人の薬剤難治性側頭葉てんかんの患者。術後の切除腔をMRI画像上でマッピングし、標準化された切除腔のデータと、発作予後、および術前後の言語記憶/視覚記憶変化との関連を解析した。

記憶障害に関連するとされる、年齢や術前の記憶機能、発作消失の有無を補正し、左側頭葉てんかん74人と右側頭葉てんかん68人を別々に解析した。

切除範囲を海馬頭部~海馬長軸に沿って55%までに留めると、術後の言語記憶障害リスクが約8分の1に低下

前方側頭葉切除術後、特に、左側頭葉てんかんで言語記憶機能が悪化する傾向が見られた。切除範囲との解析では、左側頭葉てんかんにおいて、後方海馬~下側頭回の切除が言語記憶機能の悪化と関連し、視覚記憶機能の悪化は後方の紡錘状回の切除と関連していた。切除範囲の長さを手動で計測したところ、海馬頭部から海馬長軸に沿って55%までの範囲に留めることで、術後の言語記憶障害のリスクを約8分の1に低下させられることが明らかになった。

また、術後の発作消失の有無は後方海馬の切除とは関連がなく、前方の梨状皮質の切除との関連が見られた。右側頭葉てんかんでは、統計学的に有意な結果を認めなかった。

これらの結果から、特に、左側頭葉てんかんでは、後方海馬および付近の下側頭回や紡錘状回の切除を避け、具体的には海馬頭部から海馬長軸に沿って55%までの切除に留めることで、術後の発作消失を維持しつつ、記憶機能を温存できると考えられるとしている。

患者個々の脳に合わせたテーラーメイドの脳外科手術を目指す

今回得られた結果を、薬剤難治性側頭葉てんかん患者の術前MRI画像に当てはめることで、最適な手術範囲を個々の患者の脳画像に提示することが可能となる。さらなるデータの蓄積は必要だとした上で、今後、患者個々の脳に合わせたテーラーメイドの脳外科手術を目指す予定だとしている。

また、てんかん患者の脳画像と臨床データを用いた新たなプロジェクトも立ち上げたいと考えている、と研究グループは述べている。

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