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画期的な神経ペプチド開発、中枢神経系疾患薬「経鼻投与」実現の可能性-東京理科大

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2021年11月30日 AM11:45

呼吸上皮の三叉神経から脳幹(橋)への移行経路に着目

東京理科大学は11月26日、神経ペプチドに機能性配列を付加したペプチド誘導体を新たに創製し、鼻粘膜の呼吸上皮を介した経鼻投与が、ペプチドを中枢神経系()へ効率的に伝達するドラッグデリバリー経路として有望であることを発見したと発表した。この研究は、同大薬学部薬学科の山下親正教授、秋田智后助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Controlled Release」に掲載されている。


画像はリリースより

CNS疾患は、アンメットメディカルニーズが非常に高く、近年では治療薬の候補として神経ペプチドを用いた新薬の開発が行われている。しかし、神経ペプチドは血液脳関門()を透過することはできないため、薬剤の脳内デリバリーが可能な投与経路として、BBBを回避する経鼻投与が注目されている。

鼻腔内投与後の薬剤の主な伝達経路は、嗅上皮の細胞間隙経路から嗅球を経由して脳に直接送達される経路と、呼吸上皮の細胞間隙経路から全身に吸収される経路の2つがあることが知られている。しかし、げっ歯類では鼻粘膜における嗅上皮が占める割合が約50%であるのに対し、ヒトはその約25分の1(約2%)しかないことから、ヒトでは嗅上皮からCNSへの移行経路を介した効率的な中枢移行は期待できない。これらに加え、呼吸上皮から三叉神経を介して脳幹(橋)に至る経細胞経路もあるが、呼吸上皮は血管系が発達していることから、経鼻投与された薬剤は三叉神経よりもむしろ血中に移行しやすく、この特徴を生かし、全身吸収を企図したペプチド製剤が臨床応用されている。

さらに、神経細胞の軸索輸送が非常に遅いことから、ほとんどのドラッグデリバリーシステム(DDS)研究者は呼吸上皮の三叉神経からの中枢移行経路に着目していなかった。しかし研究グループは、ヒトにおいて神経ペプチドを経鼻投与により効率良くCNSへ移行させるためには、呼吸上皮の三叉神経から脳幹(橋)への移行経路に着目することが重要であると考えた。

PAS-CPP-GLP-2はCPP-GLP-2に比べ、有意に高いエンドソーム脱出効率示す

そこで今回、難治性うつ病に対して抗うつ作用を示す神経ペプチドであるグルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)を用いて、神経細胞へ効率良く取り込まれるように神経細胞への取り込みを促進させる細胞膜透過促進配列(CPP)と、エンドソーム膜から脱出を促すエンドソーム脱出促進配列(PAS)を付加した「PAS-CPP-GLP-2誘導体」を創製し、新しい概念に基づいたNose-to-Brainシステムを検証するため、in vitroおよびin vivoの両面から検討を行った。

まず、何も修飾していないGLP-2とPAS-CPP-GLP-2をタンパク質分解酵素DPP-IVと一緒にインキュベートして、経時変化を調査。その結果、6時間後にはGLP-2は大半が分解された一方で、PAS-CPP-GLP-2は97.6%が変化せず、非常に安定性が高いことを確認した。

in vitroの実験からは、エンドサイトーシスの一種であるマクロピノサイトーシスにより、PAS-CPP-GLP-2およびCPP-GLP-2が神経細胞内へ取り込まれることが明らかになった。内小器官特異的な蛍光マーカーで染色することで、CPP-GLP-2とPAS-CPP-GLP-2の両方が、初期エンドソームに共局在することが判明。染色像からエンドソーム脱出効率を算出した結果、PAS-CPP-GLP-2はCPP-GLP-2よりも有意に高いエンドソーム脱出効率を示した。このことから、神経細胞に取り込まれたPAS-CPP-GLP-2が、効率的に細胞質へ移行することがわかった。一方、CPP-GLP-2はPAS-CPP-GLP-2よりも分解系であるエンドリソソームにより多く局在していることが判明した。次に、マイクロチャンバーでの神経細胞の培養系を用いて、PAS-CPP-GLP-2の細胞内から細胞外への移行を1細胞レベルで検証した。これにより、細胞内に取り込まれたPAS-CPP-GLP-2が、細胞外へ排出されることが明らかになった。

PAS-CPP-GLP-2をマウスに経鼻投与、側脳室内投与と同等の効果を確認

さらに、PAS-CPP-GLP-2などの誘導体の薬効をin vivoで検証。PAS-CPP-GLP-2をマウスに経鼻投与した20分後に行動実験で抗うつ様効果を評価したところ、有意な効果があることが示された。薬効用量を側脳室内投与および経鼻投与で比較したところ、同じ用量で同等の薬効を示すことが明らかになった。また、尾静脈内投与により有効性を同様に評価した結果、薬理効果を示さないことが示され、経鼻投与が全身循環に移行した可能性は否定された。

以上の結果から、ペプチド誘導体PAS-CPP-GLP-2は、PASおよびCPPを付加されたことで、経鼻投与により直接CNSに送達され、これまでの侵襲的な側脳室投与と同等の薬効を発現することが確認された。

汎用性が高く、アンメット・メディカル・ニーズの高い神経変性疾患への適用に期待

経鼻投与により、効率良くペプチドをCNSへデリバリーできる新規Nose-to-Brain技術を開発することに成功した同成果は、DDS研究と神経科学の既成概念を覆す新しい概念のCNSデリバリー技術開発に資するものと言える。

山下教授は「現在、このDDSを用いて、うつ病だけでなく、アルツハイマー病などへの適用できる可能性を示唆するデータも得られつつある。汎用性の高さに加え、神経細胞へ効率良く取り込まれるため、アンメット・メディカル・ニーズの高いCNS疾患への適用が期待される」と、今後の応用の可能性を示している。

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