日本では11月28日から「懸念される変異株(VOC)」に
国立感染症研究所は11月28日、「SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第2報)」と題した速報を発表した。
画像は感染研サイトより
WHOは2021年11月24日にB.1.1.529<系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが、11月26日にウイルス特性の変化可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した。同じく、欧州CDC(ECDC)も、11月25日時点では同株を注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)に分類していたが、11月26日にVOCに変更した。
2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。その2日後である11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529系統(オミクロン株)の位置づけを、懸念される変異株(VOC)に変更した。
細胞侵入・免疫逃避・感染・伝播性を高める可能性がある変異を複数有する
オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein; RBD; residues 319-541)に存在する。
オミクロン株に共通するスパイクタンパク質の変異のうち、H655Y、N679K、P681HはS1/S2フリン開裂部位近傍の変異であり、細胞への侵入しやすさに関連する可能性がある。nsp6における105-107欠失はアルファ株、ベータ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在する変異であり、免疫逃避に寄与する可能性や感染・伝播性を高める可能性がある。ヌクレオカプシドタンパク質におけるR203K、G204R変異はアルファ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在し、感染・伝播性を高める可能性がある。
南アフリカで急増、国内検出は今のところなし
海外での流行状況について、2021年11月27日時点で、南アフリカで77例、ボツワナで4例、香港で2例、イスラエルで1例、ベルギーで1例、英国で2例、イタリアで1例、ドイツで2例、チェコで1例が確認されている。
南アフリカにおいては、ハウテン州のCOVID-19患者数が増加傾向にある。南アフリカでは、公共の場での常時のマスク着用、夜間の外出禁止、飲食店の時短営業、集会の人数制限、酒類の夜間販売停止等の対策が継続されていた。南アフリカハウテン州で2021年11月12日から20日までに採取された77検体すべてがB.1.1.529系統であった。他に100例以上の関連症例の存在が示唆されている。11月以降に遺伝子配列が決定された新型コロナウイルスの検出割合では、B.1.1.529系統が増加傾向で、2021年11月15日時点では75%以上を占めていた。Thermo Fisher社TaqPathにおいて採用されているプライマーにおいて、ORF1, N, S遺伝子のPCRでS遺伝子が検出されないものを、「S gene target failure(SGTF)と呼ぶ。南アフリカにおいて、SGTFを利用したPCR検査では、11月中旬よりほとんどの地方で(オミクロン株と想定される)SGTFの検出が急増しており、特に、ハウテン州では、直近数日の間に50%以上の株がSGTFとなっている。
香港で報告された2症例のうち1例は2回のワクチン接種歴があり、10月下旬から11月にかけて南アフリカへの渡航歴があり、症状はなかった。別の1例はカナダからの帰国者で、2回のワクチン接種歴があり、上記の症例と同じ検疫隔離用ホテルの向かいの部屋に滞在しており、発症を契機に検査を受け、陽性が判明した。この2症例が滞在した2つの部屋と、同じ階の廊下と共用エリアの環境から検体が採取され、87検体中25検体が陽性であった。これらの陽性検体はいずれも陽性者2例が滞在した部屋から採取されたものであった。香港衛生署衛生防護中心(Centre for Health Protection, CHP)の発表によると、南アフリカからの帰国者症例がサージカルマスクを着用せずにホテルの部屋のドアを開けた際に、別の1例が感染した可能性があるとしている。CHPは症例が滞在した居室の左右隣3部屋に滞在していた者を隔離した。現在のところ、さらなる症例は報告されていない。
ボツワナで報告された4例は渡航者であり、2021年11月11日にボツワナから出国する際の検疫で探知された。ボツワナから初期にGISAIDに登録された5検体は、南アフリカからGISAIDに登録された株との関連が示唆される。ただし、アフリカ地域において、最近30日以内にGISAIDに遺伝子配列を登録している国は、ボツワナと南アフリカのみである。
イスラエルで報告された1例は、マラウイから帰国したワクチン接種歴のある症例であった。その他、イスラエル国外からの帰国者2例が疑い例として検査を受けており、現在隔離されている。
ベルギーからは、トルコ経由でエジプトから渡航した若年女性1例が報告された。この症例は、ワクチン接種歴がなく、過去の感染歴は確認されていない。この症例で、南アフリカやアフリカ南部地域への渡航歴は確認されていない。現在、この症例は、インフルエンザ様の症状があるが重症ではない。
英国から2021年11月27日に報告された2症例は互いに関連があり、また南アフリカ渡航への関与が確認された。2症例の家族は検査を実施した上で自主隔離が要請されている。現在、この2症例の接触者調査が進行中である。
日本国内での検出状況については、2021年11月27日時点で、ゲノムサーベイランスでは、国内及び検疫検体にB.1.1.529系統に相当する変異を示す検体は検出されていない。
感染拡大が懸念、診断は現行PCRキットで検出可能と考えられる
オミクロン株について、現時点での評価は以下の通り。
オミクロン株については、ウイルスの性状に関する実験的な評価はまだなく、また、疫学的な評価を行うに十分な情報が得られていない状況である。年代別の感染性への影響、重篤度、ワクチンや治療薬の効果についての実社会での影響、既存株感染者の再感染のリスクなどへの注視が必要である。
感染・伝播性への影響について、南アフリカにおいて流行株がデルタ株からオミクロン株に急速に置換されていることから、オミクロン株の著しい感染・伝播性の高さが懸念される。
免疫への影響について、オミクロン株の有する変異は、これまでに検出された株の中で最も多様性があり、感染・伝播性の増加、既存のワクチン効果の著しい低下、及び再感染リスクの増加が強く懸念される。スパイクタンパク質へ実験的に変異を20か所入れた合成ウイルスを用いた実験で、既感染者及びワクチン接種者の血清で高度な免疫逃避が確認されたとする報告がある。オミクロン株においても、このような多重変異によるワクチン効果の低下及び再感染の可能性が懸念される。
重篤度への影響について、現時点では重篤度の変化については、十分な疫学情報がなく不明である。
診断への影響について、国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。オミクロン株は国内で現在使用されるSARS-CoV-2PCR診断キットでは検出可能と考えられる。オミクロン株はSGTFの特徴をもつ一方で、これまで多くの国で流行の主体となっているデルタ株ではS遺伝子が検出されることから、この特徴を利用し、オミクロン株の代理マーカーとして、SGTFが利用できる。SGTFはアルファ株でもみられ、代理マーカーとして使用された。抗原定性検査キットについては、ヌクレオカプシドタンパク質の変異の分析で診断の影響はないとされるが、南アフリカ政府において検証作業が進められている。
ゲノムサーベイランスの質の問題で疫学的状況は過小評価の可能性も
疫学的拡大状況について、南アフリカにおけるハウテン州を含めた多くの地域での急速な感染拡大については、イベント等による人々の社会的接触機会の増大や、他の変異株の影響等の要因も排除できない。南アフリカではウイルスの遺伝子配列決定数は感染者数に対して僅かであり、また地域差もあることを考慮して解釈する必要がある。南アフリカでの感染者数の急増における本変異株の寄与の程度はまだ明らかではないが、ほとんどの地方でSGTF検出が急速に増加していること、ボツワナやマラウイからの渡航者で症例が確認されていることを考慮するとオミクロン株が南部アフリカ地域で増加している可能性が高い。
症例が報告されていないエジプトからの渡航者における輸入例が検出されていること、またアフリカ地域においてゲノムサーベイランスが十分に実施されていない国もあることを考慮すると、他のアフリカ地域でも、すでにオミクロン株による感染が拡大している可能性がある。南部アフリカ地域との人の往来の多い国においては、探知されていない輸入例が発生している可能性がある。さらに、それらの国でゲノムサーベイランスの質が十分でない場合はオミクロン株による感染拡大の程度が過少評価されている可能性がある。
現時点で日本国内でのオミクロン株による感染拡大を示唆する所見はない。すなわち、ゲノムサーベイランス上は、B.1.1.529系統と想定されるウイルスの検疫・国内検出例はまだない。日本では、オミクロン株による症例の発生が報告されている地域との人の往来は限定的であるものの、今後国内で検知される可能性はありうる。引き続きゲノムサーベイランスで検疫・国内での監視が行われる。
基本的な感染対策を推奨
同速報は、「個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される」として、締めくくられている。
なお、同速報に関する参考文献は、下記関連リンクに記載されている。
▼関連リンク
・国立感染症研究所 COVID-19関連情報