COVID-19の感染拡大が人々の「中核的信念」に与えた影響は?
東北大学は11月25日、1,196人の日本人を対象としたWeb調査を行い、COVID-19の感染拡大が人々の中核的信念の揺らぎを引き起こしたこと、また、揺らぎが大きいほど抑うつや不安感も大きいことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大加齢医学研究所スマート・エイジング学際重点研究センターの松平泉助教、瀧靖之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Humanities & Social Science Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、いつになれば普通の生活に戻れるのかわからず、パンデミックが始まった頃の世界は先行きを予測することも、環境をコントロールすることも難しい状況であったと考えられる。自然災害やテロ、重篤な病など、将来の予測や展開のコントロールが困難な状況において、ヒトは自分や他者、世界についての根本的な考え方を変えざるを得なくなると言われている。このことを「中核的信念」の揺らぎと言う。
欧米諸国のようなロックダウンが行われない日本では、感染対策にどのくらい真剣に取り組むかは個々人に委ねられていると言える。このような社会において、COVID-19の感染拡大が人々の中核的信念に影響を与えたのか、またその影響が精神的健康にどのように関与したのかは、明らかにされていなかった。
COVID-19の感染拡大で中核的信念が大きく揺らいだ人ほど心理的苦痛が大きい
研究グループは、2020年7月に1,196人の日本人(30~79歳、男女各598人)を対象としたWebアンケート調査を行った。この調査では、COVID19の感染拡大による中核的信念の揺らぎの程度についての質問のほか、年齢、性別、居住地、婚姻状況、子どもの休校の有無、感染拡大に伴う収入の変化、1回目の緊急事態宣言発令中(2020年4~5月)に、自分自身が感染対策に協力できていたと感じる程度(協力達成感)、感染対策への協力を負担に感じた程度(負担感)、感染拡大そのものに感じたストレスの程度、そして、調査実施時点での心理的苦痛(抑うつと不安)の程度を問う項目を用意した。
統計解析の結果、感染対策への負担感・感染拡大に伴う減収・感染拡大自体に感じるストレスは、中核的信念の揺らぎと心理的苦痛の大きさに寄与することが明らかになった。また、感染対策への協力達成感は、中核的信念の揺らぎの大きさのみに寄与した。そして、COVID-19の感染拡大によって中核的信念が大きく揺らいだ人ほど、心理的苦痛を強く感じていることも確認された。
日本人では、感染対策への負担感や協力達成感が中核的信念の揺らぎに寄与していた
この結果から、COVID-19の感染拡大が人々に生き方を問い直させる事態であったことが示唆される。感染対策への負担感や協力達成感が中核的信念の揺らぎに寄与したことは、関連する国外の研究では見られなかった日本人独自の結果だ。適切な感染対策の徹底は命を守るために必須であり、一人ひとりの自発的な対策行動が重要であることは言うまでもない。ただし、それによる社会と暮らしの変化が人間の心理にもたらす帰結に、同じ時代を生きる者同士がより敏感になることが、感染症との戦いにおいて必要なことかもしれない、と研究グループは述べている。
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