膀胱腫瘍切除術、構造や深達度評価が困難なケースも
東京医科大学は11月25日、がん細胞核の形態学的特徴により筋層非浸潤性膀胱がんの早期再発を予測する新規の人工知能(AI)モデルを開発したことを発表した。この研究は、同大分子病理学分野の黒田雅彦主任教授、泌尿器科学分野の大野芳正主任教授、徳山尚斗助教、人体病理学分野の長尾俊孝主任教授を中心とする研究グループが、国立新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて行ったもの。研究成果は、「Modern Pathology」に掲載されている。
画像はリリースより
膀胱がんは、世界で9番目に多い悪性腫瘍とされ、国内では、毎年約2万人が膀胱がんにかかり、約8,000人が死亡している。未治療の膀胱がんのうち、膀胱筋層に浸潤を認めない筋層非浸潤性膀胱がんは全体の約70%を占める。これらは比較的予後良好とされているが、30~50%と高い再発率が報告されている。再発を繰り返すことで予後の悪い筋層浸潤がんへの進展を認めるケースも多くあり、正確な再発予測が治療戦略の構築には不可欠だ。
現在、デジタル病理画像、人工知能技術の発展により、人間の目視では確認できない画像の特徴を捉え応用していく試みが世界的に広がっている。しかし、筋層非浸潤性膀胱がんにおいては人工知能による再発予測の報告はこれまではなかった。初回標準治療である経尿道的膀胱腫瘍切除術は手技上、検体を細かい切片にするために構造や深達度評価が難しい場合がある。
核異型から再発予測可能なAIを開発、ランダムフォレストで正答率86.7%
今回研究グループは、手技的に影響の少ない核異型に着目。デジタル病理画像技術を用いて、細胞核の形態に関するさまざまな特徴量を抽出した。続いて、これまでのAI病理学とは異なり、細胞の核異型のみで判断することが可能なアルゴリズムを開発した。
人工知能(AI)のテスト検証を行ったところ、サポートベクターマシンは正答率90%、ランダムフォレストは正答率86.7%と高い精度での再発予測が可能であることが示された。
HE染色標本から測定可、他がん種への応用の可能性も
研究により、世界で初めて筋層非浸潤性膀胱がんに対して、人工知能による再発予測の有効性が示された。また、がん細胞核の定量化された形態学的特徴の有用性が確認された。これらの手法は一般的な病理画像であるHE染色をベースに測定できるものであり、簡便に他のがんの解析にも応用できる可能性があるという。
人工知能を用いた予後予測の検討は、世界中で行われている。「今回の手法は、HE標本という、安価で病理診断のスタンダードになっている組織画像を用いることから、波及効果が大きいことが期待される。今後、さらに検討症例を増やすことにより、AIの予測精度を上げ、実用化を目指す」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科大学 プレスリリース