Lb. paracasei IJH-SONE68の産生するEPSの炎症性疾患や自己免疫疾患に対する有効性は?
広島大学は11月19日、潰瘍性大腸炎モデルマウスに対して、イチジクの葉から取得した植物由来乳酸菌(植物乳酸菌)の一種「Lactobacillus(Lb.)paracasei IJH-SONE68」がつくる細胞外多糖体(exopolysaccharide、EPS)を摂取させることで、モデルマウスの病態と炎症症状を明らかに改善することを発見。さらに、予防効果も確認したことを発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科未病・予防医学共同研究講座の杉山政則教授と、同大病院総合内科・総合診療科の医師で臨床創薬学共同研究講座の菅野啓司准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Microorganisms」に掲載されている。
画像はリリースより
炎症性腸疾患(IBD)は現在の医療技術では根治させることが困難で、生涯にわたり治療を継続する必要があることから、有効な治療法や治療薬の開発が望まれている。2020年の調査によると、20〜30代が最も高い発病率を示し、特に、難病に指定されているIBDでは、潰瘍性大腸炎の患者数は約22万人、クローン病の患者数は7万人と推定されている。同大未病・予防医学共同研究講座では、未病改善と予防医療に有益な植物乳酸菌の分離探索研究を継続的に進め、すでに1,000株を超える植物乳酸菌を探索分離し、取得している。これら保存菌株のうち、イチジクの葉から得られた乳酸菌「Lb. paracasei IJH-SONE68」の産生するEPSが接触性皮膚炎を誘発させたモデルマウスの症状を改善する効果を持つことを、2019年に見出した。
IJH-SONE68が産生するEPSのうち、特に酸性EPSの摂取がモデルマウスの下痢・血便に著効
同発見に基づき、研究グループは食品の臨床研究での効能効果と安全性の検証を実施。期待通りの結果が得られたことから、今回さらに、炎症性疾患や難治性の自己免疫疾患に対する有効性を検証するべく動物実験を行った。
まず、潰瘍性大腸炎モデルマウスで主な病態として観察される下痢と血便の症状を、その進行度合いによってスコア化し、EPSを摂取した群としなかった群(プラセボ群)とで比較。その結果、EPSの摂取によって下痢・血便ともに改善がみられたが、IJH-SONE68株が産生する2種類のEPS(中性及び酸性多糖体)のうち、特に酸性EPSの摂取が著効を示したという。
潰瘍性大腸炎と関連するMIP-2の発現がIJH-SONE68株由来EPSの摂取で抑制、炎症を抑制するIL-10の発現は上昇
次に、炎症に伴って起きる大腸の萎縮と、炎症の指標となるミエロペルオキシダーゼ活性の上昇について比較した結果、これも酸性EPSの摂取が特に効果を示すことが確認された。さらに、EPSの摂取によってどのような変化が大腸で起こっているのか、大腸組織からmRNAを回収し、定量PCR法を用いて遺伝子発現を解析。その結果、潰瘍性大腸炎モデルマウスでは、調査した炎症の制御に関与する9種類のサイトカイン遺伝子のうち、ヒトで潰瘍性大腸炎との関連性が示唆されているIL-8に相当するMIP-2の発現が有意に上昇していたが、IJH-SONE68株由来EPSの摂取により、有意にその上昇が抑制されることが確認された。また、炎症・自己免疫応答を抑制する働きをもつIL-10の発現が、酸性EPSの摂取により有意に上昇していたという。
天然由来EPSで炎症性自己免疫疾患の予防や改善に有効なサプリメント開発に期待
植物乳酸菌IJH-SONE68株をパイナップル果汁中で培養すると活発に増殖し、多量のEPSを菌体外に分泌する。得られた果汁醗酵液、もしくは、それを粉末化した素材をカプセルに詰めたり、錠剤にすれば、潰瘍性大腸炎をはじめとする炎症性自己免疫疾患の予防や改善に有効なサプリメントの製品化が可能になることが期待される。
「今後は、医師主導型の治験を実施し、将来的には医薬品の開発を製薬企業との産学連携で目指す。IBDは若年発症し、罹患期間が生涯に渡ることが多いため、天然由来のEPSが臨床応用されることに大きな期待が持てる大変重要な研究成果と考える」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果